表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第四章『味方の中の』
159/280

第三十六話『赤い人』―1



 千晶(ちあき)は赤い唾を吐き出すと、舌を弾いた。深呼吸をして、脇腹を押さえたまま立ち上がる。


「ありがと、寿君。助かったわ」


 前方には、木の枝を張り巡らせたような、大きな壁。腹部には、ひんやりとした感触。薬草で作られた湿布だ。

 作ったのは――、


「千晶、生きててよかった。さがって」


 『寿君』こと、寿途(としみち)。《自化会》会長である臣弥の養子であり、《自化会》の《SS級》であり、十二天将である木神“六合(りくごう)”の能力を体内に宿している、小学生。

 六合の遺伝子配分が少ないため、翔とは違い、目の色は黒い。漆黒といってもいい程黒く、光りを吸収しているかのように、あまり反射を見せていない。同じように、黒い毛色をしている。

 癖毛の黒髪が、ふわりと揺れた。


「まだ、生きてる」


 前を見据えて、寿途は呟いた。

 青いオーバーオールの男の表情が、笑みから驚愕へと変わる。それを無表情で見届けると、寿途は右手を横へ広げた。


「青い人、千晶に、ケガさせた。それは、よくない」


 おおよそ生気の感じられない表情のまま、手を振り下ろす。すると、床から木が“生えた”。ここは三階。もちろん、土もない。

 そこから生えた葉のない木々に、青いオーバーオールの男が呑み込まれる。何か言っていたようだが、木のうねりに巻かれて聞き取れない。

 みしみし、めきめき、という音も、木の擦れる音なのか、他の何か、なのか……判断がつかない。


 木と木の間から、赤黒い何かが伝ってきたのだが、それも、寿途が手を振り払うと、木々諸共消えてしまった。

 その場に在るのは、穴だらけの壁と、壊れた窓と、赤い女と黒い子どものみ。


 千晶は、ふぅ、と息を吐くとその場に尻をついた。


「あぁーもうー! 痛い! お腹えぐれたぁー! あだだだだだだ」

「千晶、大きな声、もっと痛い。湿布、しっかり貼って。少し、休もう」


 うあーん! と両手を突き上げて騒ぐ千晶に、寿途は寄り添い、べったりと赤い腹に手を(かざ)した。

 それで、すぅ、と傷が治ればよいのだが……そんな芸当は寿途にも出来ない。ただ、傷口を“塞ぐ”事は出来る。皮膚の代わりにヘチマの繊維を張り付け、その上をドクダミの葉で覆った。

 少し痛みが和らぎ、千晶はあぐらをかいて、ところで寿君、と寿途に視線を落とした。


「さっきの青いヤツ、どうしたの?」


 千晶は、彼が死んだとは思っていない。


「洋介の所へ、送った」


 自室に突如として生えた木にあたふたする洋介を想像し、千晶が笑う。しかし、すぐに腹部を押さえて悶絶。

 寿途は、さっき言ったのに……、と、変わらぬ表情で千晶を見やった。


 しばし痛みに震えていた千晶だったが、でもねぇ、とポツリ、呟いた。


「洋介の事、あんまり信用しちゃダメよ」


 無表情で、首を少し傾けた寿途の頭を撫でながら、千晶は言う。


「あいつ、嘘吐(うそつ)きだから。寿君、この意味分かる?」


 寿途は首を横に振る。


「寿君は相変わらず、純粋ねぇ」


 千晶は寿途に向かって、ふふ、と笑うと、視線をスライドさせる。


「あいつは《自化会》の(がん)なのよ」


 千晶は割れたガラス越しに《自化会》本部を眺めながら、吐き捨てた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ