表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第四章『味方の中の』
155/280

第三十五話『青い人』―2




 起きたら雨が降っていた。


「東京は雨がよく降るって聞いてたけど、ホントなんだー」


 ここは東京ではなく、横浜だ。というツッコミも、飛んでこない。

 身だしなみをそれなりに整えたシンジは、黒のロングTシャツに青いオーバーオールを着て、キャリーケースをベッド下に置いたまま部屋を出た。

 傘は持っていない。


「水も滴るイイ男、ってねー」


 と笑いを含んで呟く。幸い、周りに人は居ない。

 ドヤ顔のシンジだが、雨の当たらない屋根の下を選んで歩いている。

 ロングTシャツの袖口からスマホを取り出して見やれば、ユウヤからのメッセージが届いていた。

 “《自化会》に着いたら協力者が待ってるぜ”という一文の後に、笑顔の絵文字。それに、《自化会》本部の地図が続けて送られていた。


 歩いていける距離だ、ラッキー。と、シンジはスマホを見ながら目的地へ向かった。


(っていうか“協力者”ってどんな人だろ? おっかない人だったらイヤだなぁー)


 一抹の不安が過る。だが、そんな心配を今しても仕方がない。

 雨は降っているものの、単独で仕事を言いつけられたのは初めての事だ。シンジは鼻歌でも歌いたい気持ちで歩いた。

 昨夜、仕事を休んだ為に届いている、客からのメッセージにも返信しつつ。




(それにしても、何でユウヤ君は《自化会》について詳しいんだろ。協力者って誰だろ)


 シンジの問いに対する返答は、当然ながら無く。


「君が『シンジ』君?」


 代わりに、問いが投げ掛けられた。


「名前を見たとき、もっとひ弱で内気っぽい人なのかと思っちゃったよ。先入観ってダメだねぇ」


 シンジの前には、銀髪をオールバックにした青年が立っていた。髪色もさることながら、緑の瞳が印象的だ。年は自分と同じくらいだろう、と見積もる。


「ええ。ボクがシンジです。貴方が、《自化会》の協力者……?」


 問えば、そうだよ、と軽快な返事。協力者は朗らかな笑みでもって、シンジと握手を交わした。


「僕は洋介。よろしくね」


 とても愛想よくされて、シンジは拍子抜けだ。


(日本有数の地下組織の裏切り者だっていうから、身構えてきたけど……)


 おずおずと洋介を伺うと、にこりと笑顔を返された。

 道中の話題は、年齢の事だとか、普段何をしているかだとかいう、世間話だ。他愛もない話をしながら、タレ目コンビは並んで歩く。


「ところでシンジ君、武器は?」


 急に物騒な話題を振られ、シンジが声を裏返らせた。それに対して笑いが起き、シンジの頬が紅潮する。


 普段、人を傷つけるのは他の四天王や、ユウヤに任せきりのシンジだ。『武器』は持っているが、実のところ、あまり言葉に出したことのない単語だ。

 白い歯を輝かせて、


「武器はこの笑顔ですね!」


 と冗談めかして言ってみれば、柔和な笑みでもって、


「うん。女の子は瞬殺だろうね」


 爽やかな返事。おそらく外国人か、ハーフかの……異国の雰囲気漂うイケメン。この男が自分の店に居たならば、地位が脅かされるレベルだ。

 ただ、少し独特なにおいのする人物だな……。と、シンジは感じていた。


「さぁ、着いたよ。僕はただの道案内だけど……もし、逃げ出したくなったら呼んでね」


 手渡されたのは、手のひらにすっぽり収まるサイズの、四角い電子機器――。


「……コレ、ポケベル?」


 ポケットベル。九十年代に流行した、無線呼び出しを行う機器だ。


「よく分かったね。そう。ポケベル。ちょっと改造して、GPSを入れてるんだ。僕のスマホで位置情報の確認が出来るから、何かあったら発信ボタンを押してね。出来るだけ、手助けするよ」


 『出来るだけ』。つまり、洋介が対処できない場合は、自力で何とかしろという事だろう。

 シンジは、分かりました、とポケベルをオーバーオールの腰ポケットへ入れた。

 《自化会》の門が見えてきた。洋介が止まる。


「僕は実験の材料を調達しに外出してる事になってるから。ここまで」


 洋介に見送られ、シンジは“財団法人 自然と化学の共存を促進する会”と書かれたプレートの横を、通り抜けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ