表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第四章『味方の中の』
150/280

第三十四話『青い火』―2


◆◇◆◇




 深叉冴が翔たちの前に現れた頃――。




 翔の前から走り去った光は、暗くなった道を一人歩いていた。住宅はあるものの、街灯も少なく、人は居ない。

 そんな中でも目立つ、光の金髪。僅かな明かりにも反射し、それ自体が発光しているかのように錯覚する。


(うぅ……。いくら腹が立ったからって、怒鳴ったのは反省しなきゃ……)


 一人反省会真最中。とぼとぼと歩きながら、魔女と呼ばれる少女は重い息を吐き出した。通学用の鞄を両腕に収め、また溜め息。

 そして、深呼吸。


(やっぱり戻って、翔に謝りましょ……)


 踵を返すと、見知った顔が居た。大きなキャリーケースを連れている。飛行機に乗る場合、航空会社によっては、空港で追加料金を払わなければならないサイズである事は確かだ。

 人当たりの良い笑顔を湛えたその人物に、光は目を(しばたた)かせる。


「あなた……何で、こんな所に……?」


 じり。光は本能的に、足を引いた。


「光さん。女の子が夜道を一人で歩くなんて、危ないですよ?」


 その人物は笑みを崩さず、光へ右手を差し出した。




◆◇◆◇




「……どういう事?」


 翔は蔑むような眼で、父を睨んだ。

 息子とそっくりな見た目の父は、尚も真剣な表情を保っている。彼がこんなに神妙なのも珍しい。


「それが、儂にも分からぬ。《自化会》本部から少し離れた場所で、ぱったりと……」


 《自化会》本部の正門までは、翔も一緒に居た。その後、光は拓人たちが来たのとは逆方向へ走って行った。

 深叉冴の言い様から、翔と光が別れて暫くは気配が感知できていた事が伺える。


「深叉冴さんが存在してるって事は、死んではないって事だよな?」


 深叉冴は光の使い魔だ。すでに死んでいる彼は、光のお蔭で具現化し、光のお蔭で肉体を得て、光のお蔭でこの世に在る存在。光が死ねば、在るべき場所へ還る存在。

 つまり、最悪の事態にはなっていない。拓人はその事を声に出すと、父と従妹(いとこ)へ言った。


「オレは翔と行くから。親父は朱莉の事頼むわ」

「ううん。拓人は本部へ行ってくれる? 何か、ヤな感じする」


 翔は跳び、飛んだ。


「走るより、こっちが速いよね。もう暗いから、見つかりにくい」


 服を突き破り、肩甲骨辺りから出ている赤い翼。住宅地を飛ぶには大きすぎるが、空に出れば問題ない。

 電線に気を付けろよー、という拓人の声に答えると、翔は上昇した。


 今日、恵未が言っていた通り、翔は飛ぶために骨密度が低い。とはいえ、人間サイズが飛ぶとなると、それなりに大きい翼が必要だ。そんなものが空を飛んでいると当然目立って仕方がない。飛行機の操縦士も困惑するサイズだ。


 なにより、普段飛ぶ事は康成に禁止されている。

 なので、翔が“飛ぶ”事は殆どない。


(服も破れちゃうから、なるべく飛びたくないんだけど……)


 だが今は緊急事態だ。そんな事も言っていられない。

 使い慣れない自分の一部(はね)。だが、不器用な翔にも不思議と使いこなせるもので、難なく上空へと上がった。


「光君の金髪は、闇夜でもなかなか目立つんだが……」


 翼など無くても飛べる深叉冴は、地上を眺めながら顎へ手をあて、唸る。

 眼下には、山と少しの住宅と、公園。少し離れた場所に駅があり、用水路や川も見える。しかし、肝心の金色は見えない。それどころか、人もあまり歩いていない。

 学校や会社から帰って来たであろう人影が数個、道の上を移動しているものの、茶髪と黒髪しか居ない。


「うぅん……。俺、人が居るかどうかの気配は分かるんだけど、それが誰かまでは分からないんだよね……」


 人の気配を感じては目を凝らして見るが、光の姿はない。


「……光自身が結界を張って、その中に閉じこもってる、って事は……、あったりする?」


 父は、ふむ、と腕を組む。空中でくるりと一回転し、和装だというのに脚まで組んだ。


「光君が扱えるのは、床や地面に直接書くタイプのものだな。魔法陣のようなものを書くのだと、本を見せてくれた事がある。……翔は、そんなに光君を怒らせたのか?」

「分かんない。でも、すごく怒ってた気がする……」


 しょぼん。そんな文字が背景に可視化出来そうなほど、翔は肩を落とした。


「とはいえ、だ。光君が道に落書き……いや、魔法陣を書いて、そこに閉じこもると思うか?」


 それは、思わない……。と翔は、溜め息と共に吐き出した。

 その後、翔と深叉冴は各々空中から光の姿を探したが、結局光は見つからなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ