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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第四章『味方の中の』
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第三十三話『父子』―1

 翔がぽつんと取り残されたまま突っ立っていると、聞き覚えのある声が近付いてきた。男の声。言い合いをしているようだ。その合間に聞こえる、女の声。それは暗闇から浮かび上がるように、曲がり角から現れた。


 離れた位置にある街灯に照らされたのは、翔の予想通り、二人の男と一人の女。

 青みがかったLEDの街灯の下に、輝くような金髪がふたつ。翔にとって、馴染み深い顔だ。

 その少し下に、地味な黒髪がひとつ。制服姿だが、ブレザーもスカートもひどく汚れている。こちらは馴染みはないが、見知った顔だ。


「……どういうメンバー?」


 翔が訊ねると、言い合いをしていた金髪二人が口を揃えて言った。


「お前、こんな所で何やってんだ?」


 相変わらず、仲がいいのか悪いのか分からないな。と翔は思った。しかし、質問内容を忘れない内に……と答える。


「置いて行かれた」

「は?」


 これも、声が揃った。


「何にだよ」


 これもだ。面白いくらい声が揃う父子だな、と翔は感心する。


「光が怒って、どこかに行った」


 そして金髪二人は、同じように半眼になり、同じように呆れるのだ。


「で、そっちはどういうメンバーなの?」


 訊けば、三人は顔を見合わせ、声を揃えて言った。


「……家族……?」


 と。




◆◇◆◇




 時は、光と深叉冴が話していた頃まで遡る。


 潤の言葉を受け、拓人は活麗園まで来ていた。山の向こうに、夕陽の頭だけが覗いている。園の門を抜けると、生徒たちはもう居なかった。合成生物(キメラ)の姿もない。ただ、よく知っている顔がふたつ見えるだけだった。


「拓人君? どうしたんだい?」


 声を掛けてきたのは、元掃除屋。現在掃除屋を引き継いでいる竜忌の、父。藤原竜真だ。明るい金髪はふわふわとした癖毛で、ひとつに束ねられている。しっぽのようなそれは、左右に揺れながら体にくっついて近付いてくる。


「活麗園にキメラが来たっつーからオレも来たんですけど……」

「情報が早いねー。大丈夫。《自化会》の子たちと、秀貴君が全部殺したから」


 拓人が校内の状態を訊ねようと口を開いた瞬間――、


「拓ちゃんだー! 拓ちゃーん!」


 ダダダッと猪の如く猛進してくる竜忌の広げた両腕をひらりと躱し、拓人は竜真に訊ねた。


「で、学園内の現状はどんな感じですか?」

「うん。秀貴君と雪乃が校内の掃除に行っているところだよ。他の会員や在校生には、帰宅してもらったよ。色々厄介だからね」

「ちょっと父さん! 何事もなかったみたいに拓ちゃんと話さないでよ!」


 両手を広げたまま直進して行った竜忌が、帰ってきた。植え込みか何かに突っ込んだのか、くりんくりんの金髪には青々とした葉っぱや細い枝が刺さっている。

 拓人は竜忌から少し距離をとり、竜真に質問を続ける。


「竜真さんは、海外じゃなかったんですか?」

「ちょうど日本へ帰ってきて、《自化会》の本部へ向かっていたんだけど。秀貴君がここへ来たいって言うからさ」

「……そうですか」


 あからさまに嫌そうな顔をする拓人に、竜真は困り顔だ。あぁもう君は、などと声を漏らしてしまうくらいだった。


 そんな、嫌悪を顔面に貼り付けた拓人の前に、(くだん)の人物が帰ってきた。緑系統でまとめた和装。その上にのった、目鼻立ちの整った顔面。少々悪い目付き。更に、和装に似合わぬ金色の髪。拓人の父親。秀貴だ。

 その横に居る黒髪にエプロン姿の女性はというと……顰め面の二人を交互に目で追っている。困惑顔で、何度も。


「ところで拓人君、浩司(こうじ)君を見なかったかい?」

「浩司? 里田浩司ですか? いいえ。見てませんけど……」


 拓人は首を振る。活麗園へ繋がる一本の坂道を上がってきたが、誰ともすれ違ってはいない。浩司の名を口にした竜真の表情が曇っているものだから、拓人の中で嫌な予感が湧き上がる。


「浩司に、何かあったんですか?」


 浩司は拓人の後輩だ。真面目に訓練に参加する、よい後輩だった。そして、よく懐いてくれていた。

 竜真の口から返事を聞く前に、背後から答えが飛んできた。


「俺が、そいつの同期を殺したんだ」


 拓人の表情が、嫌悪のそれから憤激へと変化した。


手前(てめぇ)、また……今度は誰を殺した!?」


 着物の袷を掴まれた秀貴が既視感を抱いていると、今度は白い手が拓人の手を掴んだ。小さな手だが、力強い。


「死んだのは一宮(たける)。秀貴さんが殺したんじゃない。自分から突っ込んでいったんです。その手、下ろしてください」

「お前……確か……」


 翔の後輩の、嵯峨朱莉(さがあかり)だ。肩まで伸びた黒髪にはいつものように艶があるものの、少々乱れてもいる。以前、ものすごい形相で拓人を睨んできた少女だ。制服はほつれ、包帯や絆創膏にまみれている。

 名の挙がった会員も、翔の後輩だ。つまり威と朱莉は、同じ訓練グループ。


「何でお前が親父の肩を持つんだよ」


 拓人は着物を掴んでいた手を離し、何とも()せない表情で朱莉に訊いた。

 朱莉は答える。表情の読み取れない顔で。


「秀貴さんは、私の恩人。私は秀貴さんのお蔭で、今を生きてる。姉さんは、秀貴さんの言う事を聞かなかったから死んだ。威と同じ」


 拓人は、目の前の少女が何を言っているのか理解出来ない。


「まだ気付かないの? 私は、貴方が付き合っていた“愛莉(あいり)”の妹で、貴方の従妹」


 ほとほと呆れ果てた様子で、朱莉はそう言った。

 

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