第三十一話『青の四天王』―5
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深叉冴が現れたのは、鈴音と別れてすぐだった。
太陽が世界をオレンジ色に染め、ガラス窓がサンストーンのように輝いている。そんな輝きを眺めていたところ、唐突に出現したのだ。自分の婚約者と同じ顔をした、黒装束の少年。着物の前合わせは、左が上になっている。
「主殿! 怪我はないか!?」
「怪我?」
珍しく慌てた様子の深叉冴に、光は少しばかり呆気にとられた。
話を聞けば、光の通う山相学園に、合成生物が押し寄せたのだと言う。深叉冴は光の気配を辿って直接会いに来たらしいが、光の兄である輝は学校へ向かったのだとか。深叉冴が光の居場所を伝える前に疾風丸に跨がり、飛び出して行ったらしい。
他の《自化会》の会員が多く通う活麗園には、拓人が向かったらしい。
「翔は? 学校には、まだ景君と界君が残っているはずよ」
界が補習を受けている事は、翔も知っているだろう。友人の危機ともなれば、動きそうなものだ。だが、彼の名前は出てきていない。
「翔は怪我をして療養中じゃよ」
「怪我!?」
学校に居た時は無傷だった。帰り道で何かあったのか、あの家庭教師に何かされたのか、はたまた……。
「どういった経緯かよく分からぬが、自分で自分の腕をへし折ったらしいぞ」
「や、やっぱり……」
わけがわからない。いや、わけがわからない事をしでかすのが、翔だ。自分で自分の腕を折る? 有り得る。大いに有り得る。だからこそ、光も思わず『やっぱり』と口から出てしまった。
光が言葉をなくしていると、深叉冴が豪快に笑い飛ばす。
「はっはっは! 一時間は安静にという事なので今は家に居るが、すぐに動けるはずじゃ!」
自然治癒力の高い翔が、一時間安静にしなければならない状態というのは気になるが……。光は取り敢えず、胸を撫で下ろした。
だが、翔の事以外は不穏なままだ。
「九州に居る筈の合成生物が何故神奈川に現れたのかしら」
深叉冴は、それなのだが、と僅かに顔を曇らせる。
「詳しい事は、儂は聞いておらぬのだが……。拓人が言うには、《自化会》に内通者が居るらしくてな」
光は少し考える素振りは見せたが、すんなりと事を受け止めた。そして以前、嵐山が、夕方は養子である寿途の迎えに出ている事が多いと耳にした旨を思い出す。
「そうなの……。じゃあ、深叉冴さんはその事を嵐山さんに伝えて」
「主殿はどうするんだ?」
「アタシは《自化会》の本部へ行くわ。誰に伝えればいいかしら?」
深叉冴は腕を組んで、ううん、と唸る。
「洋介か千晶か祝辺りなら……。洋介は一応、会員の中では一番の古株でな」
洋介の名前を聞いてあまりいい顔をしなかったが、部外者の光には他にあてもないので仕方がない。光はそのまま、《自化会》の本部へ行く事にした。




