表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第四章『味方の中の』
137/280

第三十一話『青の四天王』―4




 ミコトの言った通り、シンジは自室に居た。


 自前のベッド、自前の布団の中で、寝息をたてている。ダブルベッドだが、眠っているのはシンジのみ。こんもりとした掛け布団が、呼吸に合わせて上下している。


 シンジが寝返りをうったと同時に――、


 バッターン! と、騒音とも呼べるドアの音と共に足音がババンと押し入り、シンジはベッドからドスンと落下した。モコモコの掛け布団が後を追う。


 状況の把握に至らないシンジに掛け布団越しに跨がると、ユウヤはまだ覚醒しきっていない塊を、両手で叩いた。


「シンジ起きろ! 仕事だ!」

「ふぇ? ユウヤ君? 仕事? ボク、出勤時間はまだ……」

「ちげーよ! 四天王の仕事だバァカ!」


 モコモコ巨体は寝ぼけ(まなこ)を擦る。年下に偉そうに命令されても気にしない。ユウヤは《天神と虎》のメンバーではないが、四天王にとってはボスのようなものだ。逆らいはしない。逆らえない。

 逆らった者の末路は、嫌という程見てきたからだ。


 しかし、言い分はある。


「じゃあ、店はどうすればいいのかな……」


 控えめに訊ねてみれば、「んなモン休めよ!」と怒鳴られて終了。シンジはオーナーへ連絡し、布団にくるまったままユウヤに向かって正座した。


「で、仕事って?」


 頭から布団にすっぽり覆われた状態だが、シンジの瞳は輝いている。次に来る言葉を待ち焦がれているようだ。さながら、命令を待つ犬。


「シンジには横浜へ行ってもらうから、準備してくれ!」


 ほえ? と間の抜けた音を口から発し、シンジは首を捻る。普段は自分(シンジ)の事など気にも留めないユウヤだ。そんな彼から直々に仕事の話をされた! と喜んだシンジだったが、想定外の命令をされて頭の中がプチパニックを起こしている。


「ゆ、ユウヤ君……? そんな、急に……、えっと、何でボクなのかな……?」


 自分には仕事もあるのに、何故そんな遠くまで行かなければならないのか。シンジはそう思う。だが、全てを口に出すのは憚られた。

 責めているわけでもないのに勘違いされ、殺されてはたまったものではないからだ。今まで、そんな連中を何人も見てきた。だがユウヤは、自称、仲間意識はかなり強い方――だ。

 ユウヤの言う“仲間”とは、自分に付き従い、自分を尊重し、自分の邪魔にならない者をいう。裏を返せば、ユウヤの言うことを聞き、ユウヤを立て、ユウヤが有利になるよう立ち振る舞えば、地位は保証される。


 シンジは、世渡りが上手い。その自負もある。相手が望むものを、意向に沿うよう差し出す。だからこそ、ホストとしても、《天神と虎》でも、生き残ってこられた。


「取り敢えず相手の力量をはかるには、お前が適任だろ」


 つまり、噛ませ犬かぁー。と、シンジも察した。モコモコの布団の中で。だが、反論は許されない。


「そうだね。行ってくるよ」

「7時に西鉄天神発予約したから、頼むわ」

「ええええ!? 準備しなくちゃ! ちょ、わっ!」


 どしぃん!

 布団を踏みつけ、盛大に転んだ。部屋が揺れる。

 涙声で、いたたた……、と蹲っているシンジに、ユウヤの罵倒が飛ぶ。


「てめっ! このデブ! 部屋壊すんじゃねーぞ!」


 じゃあな! 頼んだぜ!

 言い残し、ユウヤは退室した。


 残されたシンジは太く長い溜め息を吐くと、転がるように荷造りを始めたのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ