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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第四章『味方の中の』
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第三十一話『青の四天王』―2

 



 イツキは困惑していた。


 尚巳が殺されずにすんだのは有り難い流れだが、ユウヤも《自化会》の会員と繋がっているとは。いや、繋がっているのは知っていたが、短期間でこれ程無茶苦茶しているとは思わなかった。


 溜め息も出てしまう。


「『ドイツへ行く』って言い出した時に、止めておくべきだったかなぁ」

『彼なら、止めても行っちゃうんじゃないですか?』

「確かに……」


 結局、今居るのはいつもの地下牢。尚巳の荷物も、ここに逆戻りしている。その荷物の上で、尚巳は丸まった。


 マジックミラーの向こうでは、牢に入った合成生物(キメラ)の失敗作たちが賑やかだ。


「ところで尚巳君。ユウの言う《自化会》の協力者って、誰だと思う?」


 数年前まで《自化会》に居た尚巳に問う。


 尚巳は上体を起こすと、あくびをした。


『分かりませんよ。でも、おれが居た頃から残っているメンバーって、少ないと思うんですよねー』


 人間だった頃より聞き取りやすくなった尚巳の“声”を聞くとイツキは、どんな人が居るんだい? と訊いた。


『上の方って言うと……、薬品関係に詳しい人と、機関銃がよく似合う人と、ナイフが得意な人と……まぁ、そんな感じですかね。あ、あと、おれの元相方も今は《SS級》に居るって聞きました』

「例の、尚巳君の事を殺そうとした子?」

『そうです』


 どういう経緯でそうなったのか知らぬイツキにとって、その元相方とやらはとんでもない狂人に思え、警戒心が上昇した。


『でもまぁ、この面子(メンツ)の中じゃ、おれの元相方が一番マシですね』


 この一言で、警戒心もしゅるりと解けてしまった。


「……君、殺されかけたんだよね?」

『そうです』


 イツキは尚巳の言葉が理解出来ず、首を傾げた。


 尚巳は、またあくびをすると、少しだけ喉を鳴らした。


『あれは、おれも悪かったんです。おれって思った事そのまま言っちゃう事が多々あって、よく怒られるんですけどね。その時も、やっちゃったんですよ』


 尚巳はイツキの前に座り、大きな溜め息を()き、(うな)り、言葉を続けた。


 尚巳曰く。




 おれって、孤児なんですよ。(へそ)の緒が付いた状態で、駅のコインロッカーに捨てられてたんです。だから、家族ってよく分からないんですよね。

 勿論、《自化会》の施設で育ったわけですから、一緒に育った仲間は居たんですけど。訓練とかしてたら、死んじゃうんです。仲のいい、兄弟みたいに育った奴らが次の日には居ない……なんて、ザラでした。今はろくに訓練してないみたいですけど。

 んー……だから、家族が死ぬの、慣れちゃったんでしょうね。友達も同じですよ。死んでも、何とも思えなかったんです。嫌ですよね。でも、当時はそれが、おれの普通だったんです。


 で、当時の相方なんですけど。特殊な家庭で育った割りに、普通の奴だったんですよ。お母さんがめちゃくちゃ優しい人だったんで、きっとそれが良かったんでしょうね。まぁ、元相方は少し短気で気性が荒かったですけど。

 学校には普通の友達も居たみたいだし、顔はいいし頭もいいし、運動出来るし楽器も出来るって、超人みたいな奴で。

 おれに対しても友達みたいに接してくれて、一緒に居て楽しかったですね。真面目だし、仕事も順調に出来て。


 んで、そいつの彼女と母親が同時期に死んだんですけど、その後に言っちゃったんですよ『そんな事(・・・・)で落ち込むなよ』って。やっちゃったなって、後になって思いましたね。まぁ、元の木阿弥(もくあみ)ですけど。そりゃあ怒りますよね。激怒でしたよ。

 只でさえ荒れてたのに、最悪のタイミングで最悪の言葉を言っちゃったんですよね。しかもそいつの母親が、そいつにひと言も無しで逝ったらしくて。それが相当ショックだったみたいで。

 そこにおれが、トドメのひと言をお見舞いしちゃったわけですよ。

 マジで殺されるかと思いました。まぁ、当時のおれは、何で怒りを向けられてるのか理解出来なかったんですけど。


 で、元相方から逃げて、数日姿を隠してた所に、元相方の親父さんが来て、おれを逃がしてくれたんです。《自化会》では逃亡者って殺処分されちゃうんですけど、元相方の親父さんに殺された事にして、除名扱いにしてもらったんです。


 一年間かくまってもらってる間に、やっぱ相手の気持ちを考えるのって大切な事だなって思うようになりましたねー。それからはしっかり人間観察するようになって……って、そんな事は置いといて。


 んでまぁ、色々あって、何の因果か……また《自化会》のゴタゴタに巻き込まれてるわけなんですけどね。




 話し始めと同じ溜め息で締め括ると、尚巳は前身を低くして伸びをした。


「……殺処分って……。そういう組織って、日本にもあるんだね……」

『《天神と虎》も同じようなものだと思いますよ』


 淡々とした尚巳のツッコミに、イツキは苦笑いだ。


 そこへ、誰かの足音が近付いてきた。尚巳とイツキは物音を立てないように、音に集中する。足音と、男の声がふたつ――。


「ユウヤ君、マジでヤル気っちゃね」

「つーかさぁー。キメラはカッコイイ(かっけー)けど、オレらも尚巳(あいつ)みたいに合成されんのかなぁー?」


 四天王の、アキトとゴロウだ。


 

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