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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第三章『敵と味方』
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第二十九話『もうひとつの高校』―2


「朱莉ちゃん、大丈夫? 酷い事とか、されてな――」

「されてない」


 ”余計な事をするな“と言わんばかりの冷たい視線を威に向け、朱莉はその場を去ろうとした。だが目の前に浩司が立ちはだかった事で、叶わなかった。


「お前、助けに来てもらって、そりゃねーだろ」

「頼んでない」


 浩司を真っ直ぐ見据えて言い捨てると、朱莉は身を翻し、浩司と壁の間をすり抜けるようにして足早に去っていった。


 規定通りの丈に揃えられたスカートの後ろ姿を見送り、浩司は舌を弾く。


「ほんと、何なんだよあいつ。マジねーわ」


 腹を立てる浩司の隣では威が、朱莉ちゃんは相変わらずクールだなぁ、と鼻の下を脱力させている。


「お前も、もうあいつに構うの止めとけよ。ありゃ脈無しだろーよ」

「だから、オレは別に、朱莉ちゃんと……、つ、付き合いたいとか、そんなんじゃないんだって!」


 あー、はいはい。と浩司に軽く受け流され、威はぐぬぬと口を(つぐ)んだ。解せぬ様子の威に、浩司は肩を竦める。


「まぁ、人の色恋うんたらに口出す気はねーからよ」


 自由にすりゃいーんじゃねーの、と自分の意見を翻し、浩司は威の背を叩いた。




 活麗高は、翌日に学園祭を控えている。

 一年生は展示。授業の合間に準備を進めているわけだが、威たちのクラスは進行が遅れていた。


「一宮君、展示物の用意出来た? 里田くんも未提出だよね?」


 実行委員の女子に催促され、威は鞄を開く。


「待たせてごめんね。作ってきたよ」


 トン、と机に乗せられたのは、紙粘土で出来た、魚の鮭だ。上等な見た目ではないが、顎のしゃくれ具合がよく再現されている。側面の片側は鱗を纏っていて、水中を泳いでいる姿をしている。もう片方の側面は、肉を削いだ状態で骨が剥き出し。ほぼ実物大で、なかなか存在感がある。


 このクラスのテーマは”水のない標本水族館“だ。実行委員の内の一人が海洋生物マニアなので、このテーマに決定した。


 浩司も、自作のクマノミ標本を取り出した。つぶらな瞳に、オレンジ色と白と黒の色彩が可愛くもあり――、


「グロ……」


 可愛いだけに、骨や内臓が剥き出しになると、なかなかエグイ。

 実行委員の女子は、嫌な顔をしながらもクマノミを受け取ると、集めた標本置き場へ運んでいった。完成品は、後ろのロッカーの上に集められている。


「ちょっと嵯峨さん。あなたも提出遅れてるよ!」

「持ってきた。ミドリフサアンコウ」


 名前に”ミドリ“と付いているものの、全くミドリではないアンコウ。右半分がフサ付きで、左半分が標本状態になっている。不器用ながらに時間を掛けて頑張った努力が伺えた。


「よし! 全員分揃った! 後は実行委員会(わたしたち)がディスプレイするから、任せて!」


 スポーティーな実行委員女子は親指を立てると、後頭部で結ったポニーテールを靡かせながら実行委員の輪へ帰っていった。


 水中をイメージしている室内には、青いビニールテープを裂いたものが張り巡らされ、所々に紙粘土で出来た石や岩が置かれている。


「朱莉ちゃん……『ミドリ』って名前のアンコウを作ったの?」

「違う。ミドリフサアンコウ」

「オレのミドリと同じだね」


 話が微妙に噛み合っていないのだが、威は幸せそうに花を散らしている。威の使役する式神の名前が”ミドリ“という名前なので、威は朱莉との共通点を見付けられて嬉しいらしい。


 朱莉は威を無視して、実行委員から与えられた仕事――青いビニールテープを延々と裂く作業――を始めた。


 本来ならば金曜日は六時限目で終わりなのだが、翌日が学園祭ということもあり、多くのクラスが七時限目をLHR(ロングホームルーム)として使っている。


 威たちのクラスもそうだった。


 本日は夜の七時まで学校が解放されているので、塾やアルバイトのない生徒は準備の追い込みをしているわけだ。


 とはいえ、七時限目の終了の時間が迫っている。十六時半だ。それ以降は、実行委員と有志が準備を進める手筈となっている。


 威と浩司は残って引き続き作業をすると言うが、朱莉は《自化会》本部へ帰る準備をしていた。

 金曜日は集まって訓練を行うグループが多い。しかし今日は学校に残る会員が大半なので、早く帰って格技場を使うつもりなのだ。


 朱莉が鞄のロックを掛けると同時に、括り付けられている三体のブードゥ人形――毛糸で出来た小さな人型(ひとがた)(まじな)い道具――が振動でジャンプした。ピンクや紫、黄色の体に、小さなボタンの目が可愛らしくもあり、不気味でもある。タイ版の藁人形のようなものだが、近年ではお守りとしての需要も高い。


 鞄を掴んで、朱莉が椅子から立ち上がった瞬間――、グラウンドから複数の悲鳴が上がった。



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