表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第三章『敵と味方』
121/280

第二十八話『骨と負傷とカマキリ再び』―4




 カマキリから生えた脚は、おそらく男性のものだ。筋肉質な(ふく)(はぎ)、濃い脛毛(すねげ)、紺色の靴下に、黒の革靴を履いている。


 ただ、脚以外は立派なカマキリだ。しかも、鎌からは鮮血が(したた)っている。


「何あれキモいんだけどぉぉおお!!」


 笑い混じりで叫ぶ界。


「界君、笑ってる場合じゃないよ。先生が怪我をしてるし、次に狙われてるの、きっと僕たちだから」

「ムリ! 笑わないなんてムリだよぉおお!」

「じゃあせめて、泣くか笑うかどっちかに……」

「だって怖いもんんんんッ!!」


 目から滝のように涙を流し、ヒィヒィと笑う界の頬を、茶色カマキリの鎌が掠めた。空振った鎌は壁を抉りながら、ロッカーの上にあった花瓶を割った。花瓶と水とネリネ――ダイヤモンドリリー――が飛散する。


 界は頭を守りながら、カマキリから慌てて跳び退いた。


「景は格闘技とか習ってないの!?」

「僕は対人の護身術くらいしか……」

「秘密結社の人って、皆強いんじゃないのぉ!?」

「僕は、非戦闘員の立ち位置だからね。攻め入って来た敵に、真っ先に殺されるポジションじゃないかな」


 冷静に自己分析をしている景の前では、界が泣いて悲鳴を上げながらも、鎌をギリギリ(かわ)している。景は拍手を送りたい気持ちになった。


(でも、このままじゃ共倒れかなぁ……。それにしても、福岡の件と元手が同じだとして、何でこんな離れた高校に……)


 廊下に倒れている教師の状態も気掛かりだ。景が廊下に気を向けている間に、茶カマキリの(うで)が景の頭部を直撃した。


 界が、景の名を叫ぶ。


 眼鏡が床をスピンしながらスライドし、遠退く。


 倒れた景が、患部を押さえて頭を上げた。


 界が吹き出す。景を指差して。


「景、ちょ! ぶっふぁ! ヒィー! 何それ! 何ソレ!」

「え、界君、何?」


 頭を押さえたまま界の方を振り向いた景の目が、”6“なのだ。


「待ってー! 待って待って!! ”3“は漫画とかで見るけど、”6“!? 景は眼鏡外したら目が”6“になるの!? ちょっとカワイ……いや、キモ……、いや、えっと、キモカワイイ!」

「ろく??? ごめん、僕、眼鏡がないと何も見えなくて……何の事?」

「だからぁー! 景の目が”6“みたいな形になってるんだって、ばッ!」


 ドガァ!


 勢い余って振り上げられた界の(こぶし)が、茶カマキリの顎を殴打。

 カマキリは二歩、後ろへよろめいた。


 反射的に謝る界。

 眼鏡を探す景。

 怒りを露にする、生足のカマキリ。


「ア、ず……」


 カマキリの発した声に、二人は同時にカマキリを見た。確かに、茶カマキリの発した声だ。


「何? 何か言いたいの?」


 っていうか、話せるんだ……。と界は、警戒しながらも巨大カマキリに一歩近付いた。


 カマキリは界に殴られた場所に触れたが、すぐに鎌を離して震え始めた。


「あ、鎌じゃ痛い所を押さえられないんだね」


 よしよし、と撫でれば、茶カマキリはおとなしく――


 バシイィッ!!


 ――なるわけもなく。界は鎌の背に殴られ、吹っ飛んだ。盛大な音を立て、ロッカーにぶつかり、顔面からロッカーに嵌まり込んだ。


 未だ眼鏡を探している景が、床に這いつくばったまま「界君? どうしたの?」とキョロキョロしている。


 バゴン、とロッカーから抜け出すと、界は鼻血を(ぬぐ)いながらペロリと舌を出した。


「おれは大丈夫! でもロッカーはダメだね! 先生に謝らなきゃ!」

「何が起きてるのか分からないけど……相変わらず頑丈だね。それで、立て込んでる所申し訳ないんだけど、眼鏡を取ってくれないかな」


 景が頼んだと同時に、パキンッと何かが砕ける音が、室内に響いた。カマキリの履いている革靴の下で、景の眼鏡が潰されている。


「何か今、凄く嫌な音がしたんだけど……」


 と、目を”6“にした景が顔面を引き攣らせている上で、茶色い鎌が振り上げられた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ