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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第三章『敵と味方』
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第二十六話『側近の側近』―2


「おれの能力値も知らずに、そんな事言っていいんですか? っていうか、四天王って今は四人揃ってるんでしょう? おれの入る隙間ないじゃないですか」


 嘆息混じりで(まく)し立てる尚巳に、イツキは目を細めてニコリと笑いながら答えた。


「《P×P》の幹部なら、能力値は高いだろうし、四天王の内の一人は代理みたいなものだから」


 そうは言っても、だ。《天神と虎》に潜入する許可は得たが、幹部クラスの人員に加わってもいいものか……。


(普通、駄目だよなぁ……)


 尚巳は腕を組んで、うぅん……、と唸る。余りに尚巳が渋っているのでイツキは、じゃあこうしようか、と提案を持ち掛けた。


「尚巳君には、僕の側近になってもらう……っていうのはどうだい?」


 尚巳の眉間が狭まった。


「ちょっと意味が分からないですね」


 そもそもイツキ自身が、マヒルの側近なのだ。そのイツキの側近になると、実質、マヒルの側近のようなものではないか。ポッと出の新人が。そんな事、他の団員が認める筈がない。


 決起集会の時の熱狂ぶりを思い出し、尚巳は深い溜め息を吐いた。

 対してイツキは、ニコリと笑ったまま尚巳の返事を待っている。


「側近だなんて、団員が黙ってませんよ」

「うん。だからね、四天王になった上で、僕の側近になってもらいたいんだ」

「はい。益々意味が分かりません」


 役職が増えただけじゃないか、と内心叫びたいのをグッと堪え、尚巳はイツキに説明を促した。


「四天王になれる人材なら、僕やマヒルの近くに居ても何ら不思議はない。あと、マヒルには“ピンク”の四天王について貰うつもりだから大丈夫」


 何がどう大丈夫なのかは不明だが、ここに居る間はイツキに従うと言ってしまった以上、元々尚巳に拒否権はないのだ。


「大丈夫。僕の近くに居れば、なるべく(・・・・)危険から守ってあげられるし」

「あぁもう。分かりましたよ。組織内の人員構成についても、また教えてください。ところで、イツキ様」


 《天神と虎》について覚えた事を手帳にメモしながら、尚巳はふと沸いた疑問を口にする。


「ただの好奇心なんですけど……色が分からないのに、“ピンク”って分かるんですか?」


 おれの周り、色盲の人って居ないから気になって。と、訊く尚巳にイツキは、そうだねぇ……、と尚巳の服を指差した。《天神と虎》の一般団員が着る、黒のTシャツだ。

 これは黒だよね? と訊かれたので、尚巳は頷いて応えた。


 イツキは、変わらぬ笑みで頷き返す。


「黒と白は分かるよ。確かに、ピンクはどんな色か分からないんだ。でも、皆がピンクって言うからね。これはあくまで、四天王の着ている服を基準にした答えなんだけど、ピンクは黄色より少し濃い。それより濃いのが、赤色。ただ、赤と青の違いがよく分からないな……」


 まぁそこは、人の顔を見て覚えたけどね。とイツキは肩を竦めて見せた。


 しかし、だから一般団員と四天王とで色分けされているのだという事を、尚巳は理解した。


「だから、パッと見すぐに判別出来るように、尚巳君には色つきの服を着ていて貰いたいんだ」


 だからといって、現四天王を引きずり下ろしてまで色のついたオーバーオールを着てもいいものなのか。尚巳は考えあぐねた。


「それは大丈夫だよ。さっきも言った通り、四天王の内の一人は代理みたいなものだから」


 イツキの言葉に尚巳は、また心を読みましたね、と半眼を向ける。するとイツキは、久方ぶりに笑顔を苦笑へと崩した。


「ごめん、ごめん。つい……」

「ま、いいですけど」


 パリリ、と音を立ててポテトチップスを砕きながら、尚巳はコーラのペットボトルを開ける。プシッという二酸化炭素の音と共に、あ、と声を上げた。


 尚巳はイツキに、言い忘れてたんですけど、とペットボトルの口を眺めながら続ける。


「おれ、《P×P》の幹部の中でも最弱なんで。そこは念頭に置いていてくださいね」

 

 イツキは、そんな事気にしなくても……、と言いかけたのだが、尚巳が頭を横に振るので言葉を止めた。

 尚巳はイツキへ、違うんですよー、と不自然なまでの笑顔を向ける。


「おれの上司たちは、おれの百倍強いので。本気を出すと、控えめに言って《天神と虎》を二時間くらいで潰せちゃうんですよ」


 まぁ、おれが死んだからって動く人たちじゃないと思いますけどね。と苦笑しながら、尚巳はコーラを口へ運んだ。


 イツキは尚巳が自害しようとした時の事を思い出しつつ、それは怖いなぁ……、と呟いた。その開いた口のまま、疑問を投げ掛ける。


「ところで、尚巳君は何が出来るのかな?」

「裸眼長距離狙撃くらいのものですね。視力は四あります。あー、あと、霊視ですね。知ってると思いますけど、《自化会》は霊視が出来ないと《A級》以上になれないんです」


 ほら、おれ、三年前まで《自化会》の《A級》に居たんで。とヘラっと笑っていた尚巳だったが、その表情のまま、動きも止まった。石化したかのように動かない。


 不思議に思ったイツキが、尚巳君? と目の前で手をワイパーのように動かすと、尚巳の大きな目がパチリと瞬いた。

 白いオーバーオールのポケットに手を入れ、青い顔で、


「すみません、あの、ちょっと、連絡を、取りたいヤツが居まして……」


 とタブレットを取り出した。


「いいよ。今、ユウは買い物に出掛けてるし。幹部会議までは時間もあるから」


 イツキの言葉を聞き、尚巳はタブレットを起動させて、電話帳を開いた。


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