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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第三章『敵と味方』
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第二十五話『芹沢凌』―5



 芹沢凌には、友達が居ない。


 雅弥に拾われるずっと前に親交のあった友人たちとは、一切連絡を取っていない。街中(まちなか)で偶然遭遇したとしても、向こうは凌に気付かないだろう。凌も、話し掛けるつもりは毛頭ない。


 仕事仲間は、勿論居る。

 組んでいる尚巳を始め、事務所に所属している社員は、仲間意識が強い。喧嘩もするが、他愛もないものだ。凌自身、月イチくらいで喧嘩中に骨折をしているが、気にする程の事でもない。

 骨折程度なら、天后の力を借りずとも自力で治せる。


 本社の社員には、仲のよい関係にあたる人物が居ない。顔と名前と所属部署を覚えてはいるが、その程度だ。同期も居ない。


『俺と友達になってよ』


 数日前、翔に言われて思ったのだ。そういえば、”友達“って懐かしい響きだな――と。


 実は、友達になろうと言われたのも初めてだった。学校へ通っていた頃は、自然と”友達“が出来ていたからだ。


 翔の事を嫌悪しつつも、どこか喜んでいた自分が居た事も事実。だがそれを認めたくない凌は、心中で頭を掻き毟った。


「《P・Co(ピコ)》は、組織基盤がしっかりしてるから働きやすいだろ」


 唐突に仕事の話を振られ、凌は意識を現実に戻した。

 拓人は、自分の銃を解体(バラ)しながら話し掛けてきたのだが、凌の返事待ちで顔を上げた。

 拓人と目が合い、凌は慌てて、そうだな、と返答した。


「情報管理と現場担当が分かれてるから、仕事しやすいかな……。仕事の割り振りも、得意分野とか考慮されてるし」

「オレ、他の組織の内部を知らなかったから、《自化会(うち)》がどんだけ粗末な組織かってのが、この数年でやっと分かったんだ」


 あんな状態の翔を平気で使うくらいだからな、と言いながら、拓人は手元に視線を戻した。


 凌は翔を横目で見た。自分の父親を跡形もなく消し去った人物。同時に、山も半分消し飛ばしている。しかも、その力を使いこなせていない。


 《P・Co》ならば、翔を実践で使うなど有り得ない。凌は、拓人の言葉に対して胸中で大きく頷いた。


 凌は、典型的なマニュアル人間でもある。教えられた事への対処は完璧にこなすが、不測の事態にめっぽう弱い。なので、翔が苦手だ。どう動くのか、予想出来ない。

 だからこそ、そんな翔と組んでいる拓人を尊敬するのだろう。


「前も言ったけど、翔は別に、悪い奴じゃないんだ。考え方が極端なだけで。能力を制御出来ない奴を現場へ出す方が間違ってる。世間に出すのすら危険だ。自制が効かない焼夷弾(しょういだん)みたいな奴だからな」


 この事についても、凌は大きく頷くしかない。否定する点など微塵もない、事実だ。


「だからさ。今回、家庭教師が見つかって本当に良かったって思ってる。凌の親父さんは……悔やまれるけど……。翔の事、嫌うなってのも無理な話だろうし、同感はしなくていい。けど、理解はしてやってほしい……かな。まぁ、身勝手な話なんだけど」

「苦労はでかいと思うんだ」


 凌の口を突いて出たのは、そんな言葉だった。翔を庇う気など、全くもって抱いていなかった凌自身が驚いている。

 少し離れた場所で、婚約者と手を握り合って話している翔を眺めながら、凌は短く息を吐いた。


「普通と違うってのは、苦労するから……それを責める気は、ない」


 凌は視線をスライドさせ、父親と組んで仕事をしていた深叉冴を見やった。十二天将である天后、天空と、何やら談笑している。


「オレの親父も、あまり家には帰って来なかった。実のトコ、遊んだ記憶も、あんまねぇんだ」


 だからかな、翔を本気で怨みきれないのは。と、凌は胸中で自嘲気味に呟く。


 拓人は、作業の手を止めていた。


「親の(かたき)を討つっつー目標を掲げて、この業界に入ったからな。引っ込みつかなくなってたんだ。ぶっちゃけ、オレにとっちゃ親父が死んだ事より、その所為で母親が…………死んだ方が、ショックでかかったし」


 ホント、親不孝者だよなぁー。と嘆息する凌の話に、拓人は黙って耳を傾けている。


「今思えば、親父は凄く優しかったんだ。自分の仕事が危険だから、息子のオレと距離を置いてたんだろうな。今なら、そう思う」


 っつか、こんな事他人(ひと)に話すの初めてだから、恥ずいわ! と突っ伏す凌に、拓人は一言、凌は親不孝者じゃねーよ、と告げて手元にある銃の手入れを再開した。


「親不孝者……か……」


 重い息と共に吐き出された低い声は、頭を覆っている腕に阻まれ、凌の耳には届かなかった。



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