表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第二章『(頭が)ヤバい奴ら』
102/280

第二十四・五話『高嶺の花ズ』


幕間です。

女子二人がいちゃいちゃしているだけの話(笑)






 時は遡り――翔と凌が“決闘”をしていた頃。




 アイボリーが基調となった、半円アーチの窓が並ぶ駅。美少女二人組は、他の客の視線を浴びつつ――だが、全く気にせず――改札を抜けた。


 プラチナ・ブロンドのロングヘアを三つ編みに結っている碧眼美少女は、大きな襟にレースのあしらわれた、スモーキーピンクのカントリーファッション。

 もう一方は、アジアン・ブラックのロングストレートヘアを靡かせている。モノトーンでまとめられたファッションで、白のトップスに、黒のロングスカート。


 天使と悪魔、と称してもいい程に、対照的な二人。実際には、休日を満喫している只の女子高生である。


 ともなれば、同学年の異性の話題で盛り上がったりもするわけで。


(ひかる)のクラスに転校してきた山辺(やまべ)くん、、女子から人気よね」


 黒髪の少女が話題を振ると、金髪の少女は、そうね、と細い指を口元へ添えた。


「アタシには、翔の舎弟にしか見えないけれど」

「確かに。見た目はそこそこワイルドなのに、天馬君にはヘコヘコしてるものね」

「翔が少し鬱陶しがっているから、そろそろ追い払おうかしら」


 ふふ……、と綺麗に口角を上げて笑う光に、黒髪少女は半眼を向ける。


「西洋の魔女様は怖いですこと」

「あら。どうやって追い払うか、なんて、まだ何も言っていないわよ」


 心外ね、と書かれた顔で光は、鈴音(すずね)だって、と相手を名指し、続ける。


「東洋の魔女様は穏やかなのかしら?」


 いや、アタシはそうは思わないわね。と、一人反語で呟く光に、鈴音は涼しい顔で答えた。


「あたしは魔女じゃなくて、巫女よ」

「似たようなものよ」

「いいえ。妖精と悪魔くらい違うわ」

「あら。似たようなものよ」

「自分は降霊師(イタコ)と一緒にされたら怒るくせに……」


 粘着質な視線を送られても気にせず、光は、ふふん、と鼻を鳴らした。


「降霊、錬金術、祓魔、屍術……得手不得手はあっても、全てに精通しているのが、アタシたちだもの。ひっくるめて、“魔術師”って呼ばれるわね」


 だから、アタシは“魔女”って呼ばれるのは嫌じゃないわよ。と光はすまし顔だ。


「あたしだって、黒猫を連れた、ホウキに乗って空を飛ぶ魔女なら大歓迎よ。でも、魔女って『ヒッヒッヒッ』って笑いながら、紫色の液体を鍋でぐつぐつ煮込んでるイメージなのよね」


 とんだ偏見だけど反論出来ないわ、と光も妙に納得して見せている。

 毒リンゴを食べさせようとしたり、子どもを煮て食べようとしたり、生き物を石に変えたり、城に近付く女の子を鳥に変えて食べたり。世間の“魔女”に対する認識とは、こんなものだ。


 実際、薬草を扱うのが得意な母の煮ている液体が、紫色だった事もある。光は再度、確かに、と肩を上げた。


 そんな光の隣で、同じように嘆息する鈴音。


「っていうか、あたしは将来、家業を継ぐ気なんてないのよ」

「モデルでもやれば?」


 この前もスカウトマンに声掛けられてたでしょ?、と問えば、返ってくるのは唸り声。

 嫌がっているのかと思いきや――、


「モデルになれば、イケメンとの出会いも増えるかしら」


 と、なかなかに(よこしま)だが前向きな返事だ。


「鈴音は面食いだものね……」


 フィジーの海のように澄んだクリスタル・ブルーの眼を細め、光は金の長い睫毛を上下させた。


「性格も大切だけど、男はまず見た目でしょ。ってなわけで、顔面も性格も上々な成山(なりやま)君は、今のあたしにとって理想と言えるわね!」

「アンタ、この前遠回しにフラれたじゃない……」

「フラれてなーいー! “今は”ダメって言われただけー!」


 あぁ、はいはい。と相槌を打てば、黒髪美少女は、何よその反応! とご立腹だ。


「逆に、あんたはあんなイケメンと一緒に暮らしてて、揺らがないわけ?」

「あら、愚問ね。天変地異が起きても揺るがないわよ」


 鈴音は、ホント信じらんない、と顔を歪めるが、でもまぁ、と肩を竦めて見せた。


「光がイケメン好きじゃなくてよかったわ。光と男の取り合いだなんて、御免だもの」

「あら。何をもって“イケメン”とするかには、個人差があるわよ。でも、そうね。確かにアタシは、見た目には拘らないわ」


 しれっと言って退けた光に向けられる、じっとりとした黒い視線。上瞼を半分落とした鈴音が、よく言うわ、と前方を指差した。


「今日は光の大好物を眺めに来たんでしょ。付き合う身にもなってよね」


 鈴音の指先は、駅の出口を指している。その更に先に見える建物が、今日の目的地。緑青ろくしょう色の方形(ほうぎょう)屋根が特徴的な、国技館。

 プロレスなどの格闘技や音楽のコンサートなども行われる会場だが、相撲で有名な建物だ。


 相撲の秋場所は終わっているが、今日は全国少年相撲大会が行われている。


 光の目当ては、見学やスカウトに来ている力士だ。


「全く。何であたしが、お相撲さんウォッチングに付き合わなきゃいけないのよ……」


 ゲンナリとしている鈴音とは対照的に、光は生き生きとしている。キョロキョロと辺りを見回しながら、


「たまに浴衣を着たお相撲さんがこの道を通るのよ。会場を見た後は、ちゃんこ鍋のお店へ行きましょ。因みに、力士が作ればカレーだって”ちゃんこ“なのよ」


 と。親友の言葉は光の耳をすり抜けていったようだ。


「君たち、どこから来たの? アメリカ?」


 振り向いた先に居たのは、浴衣に身を包んだ、恰幅(かっぷく)のいい男。頭には(まげ)が乗っている。

 鈴音が気怠そうに口を開いた。


「違います。あたし達は日本じ――」

「アタシたち、横浜から来たんですけど……」


 光が鈴音を押し退け、両手の指を絡めつつ、上目遣いで休日(オフ)の力士――らしき人物――を見上げた。


「美味しいちゃんこ鍋が食べられるお店って、近くにありますか?」


 パチリと瞬きをすれば、長い睫毛がパサリと動く。

 自分の顔が写り込む程澄んだ瞳を間近に、力士――らしき人物――は、顔を赤くして口篭(くちごも)った。


「出来れば、お兄さんのように、カッコイイお相撲さんの居るお店に行きたいです」


 “お兄さんのようにカッコイイ”を強調し、ググイッと言い寄る光に、鈴音は半眼を向けるしかない。なんなら、動画を撮って光の婚約者に見せ付けてやろうか……。という考えも頭を過った。だが、そんな事をすれば自分の命も危ぶまれると察し、踏み(とど)まった。


(まぁ、光のコレは本当に、“可愛い動物を見に、動物園に来ました”って感覚だから、浮気とは違うのよねぇ……)


 肉付きのよい腕を(さす)って打ち震えている親友を眺めながら、鈴音は嘆息した。

 つまり、今の光の状況は、例えるならば“癒しを求めて猫カフェにやってきて、膝に猫を乗せている”といった感じなのだ。断じて、浮気などではない。光自身にも、そんなつもりは毛頭ない。ただ、むちむちの体を見て、あわよくば触りたいだけなのだ。


 変に(つつ)いて、光なり翔なり、または双方の怒りを買おうものなら、それは自分にとってマイナスでしかない。なので、鈴音は黙って眺めている。


 どうでもいいけど、早くしてくれないかしら。と胸中で愚痴を溢しながら。


 だが、力士――らしき人物――はデレデレと鼻の下を伸ばしているし、光は幸せそうにその腕を撫でながら眺めているしで、まだ前にも後ろにも進みそうにない。


 鈴音は、興味の欠片もない眼前の光景から顔を背けると、溜め息を吐き出した。そして、辺りを見回し始めた。


 あーあ、細マッチョなイケメン居ないかしら。と。




 服や男の好みこそ真逆だが、さっぱりとした性格をしている二人なものだから、仲良くやっている。何だかんだで、光が日本へやって来た、小学生の時からの付き合いだ。


 この日も、光が「臨時収入が入ったの。ご飯はアタシが奢るから付き合って」と言うから、出てきたわけだ。で、午前中はお相撲さんウォッチング。午後は渋谷で、イケメンウォッチングを予定している。ついでに鈴音は、イケメンが働いているカフェでパフェでも奢って貰おう、とも考えている。


 そうこうしていると、幸せに満ちた表情の光が――スキップ混じりで――鈴音に近付いてきた。


「ふふ。元大関さんがやっている、近くのお店を教えてもらったわ」


 ご満悦の光を見れば、失笑気味ではあるが、鈴音の表情も自然と緩んだ。


「ま、光が楽しそうなら、来た甲斐が有ったってなものね」

「え、何?」


 きょとんとしている光に、鈴音はやれやれ、と肩を竦めた。


「ツンツンした女王様気質の光もいいけど、好きなものを見てる時の、乙女乙女した光も、あたしは好きよ。……って話よ」

「あら。愛の告白は有り難いのだけれど、残念ながら受け入れられないわ」


 真顔で返され、鈴音は、あぁはいはい、と軽く手を叩いた。


「そういう、本気か冗談か分からないトコも引っ(くる)めてね」

「あら。冗談よ。でも、そうね……。悪い気はしないわ」


挿絵(By みてみん)


 それは光栄だわ、と鈴音が(うやうや)しく頭を下げれば光は、苦しゅうない(おもて)を上げい、と返し、鈴音に「何で殿様風に返すのよ」と笑われた。


 そんな寸劇を交えるくらいには、仲が良い。まさに、休日を満喫している女子高生だ。


「あーあ。光が男だったら面白かったのに」

「『面白い』って、恋愛対象ではないのね」

「あ、ガッカリした? ガッカリしたの? 光だって、あたしが彼女とか嫌でしょ」


 鈴音は、嫌だ、と即答されるかと思っていたのだが、光は、そうでもないわよ、と笑っている。


「隣に置いておくと、優越感に浸れるくらいには鈴音は美人だもの」

「何それ。あたし、飾りじゃないんだけど」


 と頬を膨らませれば、光の指先が突き刺さった。その弾みで、鈴音の頬は口にめり込む。


「アンタが男に求めてる事を、そっくりそのまま言い返しただけよ」


 むすりとむくれる友人に、光は笑顔を崩さず続ける。


「まぁ、拓人君にターゲットを絞るのなら、協力しない事もないわよ」

「じゃあ、絞る」


 即答だった。


「拓人君、黒髪ストレートロングが好みらしいから、鈴音はドンピシャの筈よ」

「え、うそ、やだー!」


 全く嫌がっていない「やだー」が炸裂したところで、光は一つ付け足した。


「ただ、拓人君を狙ってる人ってたくさん居るのよね。男の人にも結構人気だし。そうね、翔の従兄(いとこ)も、男だけどしょっちゅう言い寄って――」

「え、うそ、やだ」


 鈴音が前言撤回するのに、五秒も掛からなかった。


「っていうか、あたしたちまだ十七歳やそこらよ!? 一人に絞るなんて無理よ! というわけで、午後は予定通りイケメンウォッチングよ! その前に、力士ウォッチングに行くわよ!」


 何やらやる気を出しまくっている鈴音に手を引かれ、光は国技館へと足を踏み入れた。





次から第三章になります。

のんびり更新ですが、変わらずお付き合い頂けると幸いですm(_ _)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ