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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第二章『(頭が)ヤバい奴ら』
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第二十四話『悪の組織』―5

 滝沢は、やる気に水を差された気分で廊下を歩いていた。腹の底から捻り出すように溜め息を吐きながら。


 ウチの会長にも困ったモンだよなぁ、などと思わず言い溢すくらいには、気疲れしている。


「どうした滝沢。でかい溜め息なぞ()いて」

「うわあああああ!?」


 予期せぬ背後からの声に、驚きの余り見事な尻餅をついた滝沢は、目尻に涙を浮かべて臀部を(さす)った。


「み、み、深叉冴さん……急に話し掛けないでくださいよ……。寿命が縮みました……」


 宙に浮いている、黒い癖毛に赤い眼。

 いつも黒装束姿の深叉冴だが、今日は普段着仕様なのか、黒と赤のボーダーの長袖Tシャツを着ている。この小悪魔ときたら、神出鬼没で(たち)が悪い。しかも、悪びれる様子もない。


「すまん、すまん。臣弥の気配を辿って来たのだが、階数を間違えた」


 一応謝ってはいるが、赤い舌を覗かせて笑っている姿からは、反省の色は伺えない。

 滝沢が、何のご用ですか? と問うと、深叉冴は廊下に足をついて仁王立ちした。


「拓人から連絡があっただろうが、臣弥に詳しい話をするようにと主殿からの言い付けで来たんじゃよ」

「そうでしたか。ああ……そういえば、光さんへのアルバイト代も、最後の振り込みが完了したらしいので、お伝えください」


 深叉冴は了解すると、瞬きをする間にその場から消えた。


 滝沢は深叉冴の立っていた場所を眺めていたが、また溜め息を吐くと、事務室へ走った。


 会長の秘書という役職ではあるが、会員たちの生活補助をしたり、武器の在庫管理をしたりと雑用が多い。何分(なにぶん)にも、雑務をこなす人員が少なすぎる。


 会長である臣弥が活動内容とそれによって得られる収益の計算はしているが、彼は科学者気質なものだから研究室に籠る事も多い。否、研究室に居る方が多い。


「あーあ。グループ分けして訓練を始めてから、銃弾の減りが著しいな……」


 会員が補充する為に常備してある銃弾の箱を眺めながら、滝沢は本日何十回目かの溜め息を吐き出した。


「また“(はこ)”から補充しないと……。えっと、“匣”にある在庫はどんな感じだっけか……」


 記憶を呼び起こす為に、決して優秀なわけではない頭を掻く。確か、多くはない筈だ。


 そしてまた溜め息。


「溜め息を吐くと幸せが逃げるぞ」

「うわあああああ!?」


 突如耳に息が掛かり、滝沢は天井に頭がぶつかるほどの勢いで飛び退いた。


「はっはっは。滝沢はリアクションが面白いな! しかし、こんな場所で暴れると危ないぞ」

「深叉冴さんー! だから、やめてくださいってば!」


 耳を押さえて訴えるが、当の深叉冴は、「在庫管理、ご苦労、ご苦労!」と滝沢の背中を叩いている。……のだが、急に顔をフッと陰らせた。


「儂が死んでから苦労を掛けているな」

「深叉冴さんはご生前から、事務作業には殆ど関わりなかったじゃないですか」


 挿絵(By みてみん)


 キッパリ真顔で言い返され、深叉冴も同じく真顔で更に言い返す。


「儂は長時間数字を見ると、頭痛と吐き気に見舞われるのでな」

「いや、威張って言う事じゃないと思います……」


 がっくりと項垂れる滝沢の背中を叩きながら、深叉冴はまた笑う。


「今も言うたであろう。溜め息を吐くと幸せが逃げるぞ。笑っておけ」

「笑える要素がないのに、笑えませんよ」

「そういうものか?」

「そういうものです」


 驚いた拍子に放り投げてしまった書類を拾いながら、滝沢は深叉冴に渋面を向けた。この人も大概だ、と口から出そうになったのを(こら)えて。


「まぁ、儂は現場主義じゃからのう」

「それ、余計笑えないと思いますけど」


 上級会員たちの仕事場の様子を思い出し、滝沢は更に顔を歪めた。

 お世辞にも綺麗な仕事とは言えないし、それこそ、子供向けのヒーロー番組でいうところの“悪の組織”とは、自分たちと重なる。

 相手にしているのが、世間一般に言う“悪”なわけだが、子どもたちの“ヒーロー”は、相手を殺さないように努めるものだ。

 結局のところ、《自化会》のやっている事は“悪の組織”と変わらない。


「多忙で苦労は絶えんだろうが、笑っていれば気分くらいは軽くなる。儂は、子どもたちにそう教えた」


 その場でくるくる回りながら説く深叉冴を、滝沢は尚も解せぬ顔で眺めている。

 深叉冴も、滝沢の言わんとしている事を察して苦笑した。


「翔も、その内元に戻る(・・・・)からな。あやつは結構、笑っていると思うぞ」


 滝沢が深叉冴の言葉の意味を理解出来ず疑問符を浮かべていると、深叉冴は、ああそうだ、と手を叩いてピタリと止まった。


「先程、臣弥には話したのだが――」


 そう切り出し、《天神と虎》のボスの弟が光の伯父から魔導書を盗んで、カマキリ男を造ったであろう事や、超能力が使えるのではないか、などと説明した。


 それを聞いた滝沢の顔が本日最も苦々しくなったのは、言うまでもない。


ここまでのご高覧、有り難うございます!


一応、ここで第二章が終わりました。

キャラクターがまた増えたので、登場人物紹介も考えていますが……それは追々……。


次回幕間を挟んでから、第三章へ移行します。


これからもお付き合い頂けると幸いです。



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