表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第二章『(頭が)ヤバい奴ら』
100/280

第二十四話『悪の組織』―4




 《SS級》のメンバー三人と出会ってきた滝沢だが、今日は平日。他の会員は、皆学校へ行っている。


 不登校の会員を除いて。


 滝沢は、現在ここに居る筈のない、肩まで伸びた髪の後ろ姿を呼び止めた。


「またお前は……学校はどうした」

「ご心配なく。只のサボりです」


 学校へ行っていないのに、学校指定の体操服を着ている女子高生――嵯峨朱莉(さがあかり)は抑揚の少ない声で答えると、滝沢に背を向けた。

 しかし、話はまだ終わってないぞ、という声に、うんざり気味にその場に留まる。


「テスト期間には登校しています」

「そういう意味じゃない。高校には他のメンバーも居るから、コミュニケーションを――」

「そういうのは、威に任せています」


 朱莉の返事に、滝沢は顔を渋くした。ああ言えばこう言う。普段は喋らないくせに、喋ると噛み付いてくる……と。


「威の心配はしていない。お前の事を言っているんだ」

「それでしたら、威の学力を心配してやってください」


 またしても話題を他人に向けさせる朱莉に、滝沢は呆れと苛立ちから、太い溜め息を吐いた。


「そんなに《自化会(ここ)》が嫌いか……」


 滝沢が思わず溢した言葉に反応したのは、朱莉の人形だった。

 どこから現れたのか――手のひらサイズの、小人(こびと)のような人形。金髪の、西洋の女の子のようなシルエットだ。

 それが、小さな手で滝沢の口を塞いでいる。


「滝沢さん、滅多な事を言わないでください」


 朱莉は人形を自分の首の後ろへ収めながら、滝沢を睨んだ。


「勘違いされると迷惑なので言っておきます。私はこの場所を失いたくないから、ここに居ます。入会して三年間、その気持ちに変わりはありません。あと、学校へは明日から登校しますので、問題ないです」


 一頻(ひとしき)り喋り、失礼します、と一礼して、朱莉は格技場の方向へ去っていった。


 滝沢も事務作業の続きをしようと一歩踏み出したのだが――背後で、ドタン! という重量感のある音がしたので、振り向いた。

 廊下の真ん中で、黒い人影がノビている。両手に持った紙袋だけは、地面につかないように持ち上げて。


 少しして、黒い塊は上体を起こした。


 《自化会》の会長である嵐山臣弥。ワイシャツ以外は見事な黒尽くめだ。


「朱莉さんは、分かりにくいですけど、根は素直な良い子なんですよぉ」


 いつものニコニコ顔に、間延びした声。鼻が少し赤いが、擦りむいてはいないようだ。


「会長、お帰りなさい。また何もない所で転んで……」


 臣弥は差し伸べられた手を掴み、よっこらしょ、という掛け声と共に立ち上がる。


「ただいま帰りましたぁ。ふふふ。朱莉さんは、少し祝君に似てますねぇ。ツンデレって言うんでしたっけ?」


 胸元にパン屋の紙袋を抱えた黒尽くめの男は、平日に高校生が自宅に居る事にはノータッチだ。この男は基本的に放任主義なので、会員に必要以上の干渉はしない。


「しかしまぁ、彼に近しい人は、気難しい性格が多いですねぇ」

「彼?」


 眉間を狭める滝沢に、臣弥は相変わらずの微笑を向けたまま、忘れたんですかぁ? と質問をした。だが、質問の返事を聞かずに続ける。


「朱莉さんを《自化会(ここ)》へ連れてきたのは――」

「あ、会長やんか。おかえりー」


 臣弥の言葉を遮り現れたのは、洋介から買い物を頼まれた、祝だ。いつものように、黒のジャージ姿で階段を降りてきた。

 髪も黒ければ、両耳と口元についているピアスも黒いので、ある意味祝も黒尽くめだったりする。ただ、彼の場合はジャージに金色のラインが入っている。


「祝君はお出掛けですか?」

「洋介に頼まれてな。野菜と果物買ってくるわ」

 

 未だ不本意そうな祝に臣弥は、外はいいお天気ですよー、と世間話レベルの言葉を投げ掛けた。


 祝は、せやね、と肩を竦めると、んなら行ってきますー、と手を振って靴箱のある方へ向かって行った。


「ところで滝沢、何をそんなに急いでいるんですか?」


 歪んだネクタイを直しながら臣弥が訊くと、滝沢は、それがですね……、とスマートフォンでニュースの映像を見せた。


「わぁー。かっこいいですねぇ」


 私としては、鎌がもっと大きければ完璧です。と笑っている会長に、滝沢は肩を落とした。


「会長、これ、敵なんですよ?」

「いえいえ。敵だろうと味方だろうと、素晴らしいものは相応の評価をしなければいけませんよ。で、あれは何ですか?」


 滝沢が、《天神と虎》で造られた生き物らしく……、と説明すると、臣弥は手をひとつ叩いた。


「そうでしたか。それはそれは。ライオンとトラを掛け合わせてライガーをつくるのを、ハードにした感じですね」


 なるほど、と一人納得して頷く臣弥に滝沢は、ちょっと違う気がします……、と渋い顔をしている。


「まぁ、彼は異種交配から生まれたわけではないですからねぇ。しかしながら、こういったものを大量に造り出すとなると、同じく大量の人間が必要になりますねぇ」


 その“人間”の出所は何処(どこ)になる事やら、と呟きながら、臣弥はパンの入った袋を抱えて、会長室へ足を向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ