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第二帖 佳月なきも夢の如くに  作者: 水城杏楠
二章  道行き人も むすぶばかりに
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 風が、動いた。

 強く、吹き荒れた。

 それは雑草のような植物に見えるのに、背丈は優に紗夜を超えている。大きな葉がばさりと動き、まるで巨大な生き物のようだった。

 その小路には植物が広がり、隙間はどこにもない。

「紗夜、緋桜。動くなよ」

「―――……」

 返事をしたかったが、声が出なかった。動きたくても、動けない。

 緑色の葉と茎が、いっそう強く揺れた―――と思ったそのとき。

(―――やだ……っ)

 思わず身体が条件反射で避けようとしたが、それは紗夜まで届かなかった。目の前で瑚月が素早く腰の太刀を抜いて切り落とすまで……一秒もなかったかもしれない。

(茎、が……伸び、た?)

 まるで紗夜たちを絡めとろうとしたかのように、何本もの茎が伸びてきたのだ。瑚月が切り落とした茎が地面でぴくぴくとわずかな痙攣を見せたあと、動かなくなった。

 太刀を構えたまま、瑚月はその植物に切り込んでいく。

「風、刃になりて闇を滅す」

 紗夜たちのほうに向かって吹いていた風が、逆流した。より細く強くなって、植物に襲い掛かる。

 大きく開いていた葉の数枚が、細かく切り刻まれてぱらぱらと地面に落ちた。

「……あれ、芹だよ」

 緋桜がつぶやく。―――セリ?

 あの化け物のような植物が野菜のセリだというのだろうか。聞き返そうと口を開きかけたが、瑚月の声にかき消された。

「こいつ……っ! ―――まずい、発動する!」

 瑚月が振り返った。

「足元だ紗夜っ!」

「え?」

 紗夜が目を落としたときには、すでに自分の沓が植物の茎に絡み取られていた。

「やだ……っ! なにこれーっ」

「紗夜っ!」

「離れろっ、緋桜っ!」

 緋桜が紗夜の腕をつかんだが、瑚月の声ですぐに離れる。紗夜は足を動かそうとしたが地面に縫い付けられてしまったかのように動かない。沓を脱ごうにも、もう茎は足首をも捕らえている。

「去れっ!」

 瑚月が長細い紙のようなものを投げつけてきた。

「―――烈火、異形を払え!」

 足元から小さな炎が上がる。不思議とそれほど熱くはなかったが、本能的な恐怖を止めることはできなかった。

 少しだけ足を掴んでいた力が緩まった。紗夜は左足を動かそうとして、思ったようには動かせなくて躓いた。

 身体が後ろに倒れて―――。

「―――八咫(やた)っ!」

 瑚月が黒い紙を取り出して紗夜に投げる。服の端にかろうじて付いたそれを、紗夜は見ることができなかった。その紙に、黒い影がすっと溶けて消えた。

 紗夜は地面に激突する衝撃を予想して、とっさに身構えていた。……なのに、それはいつまでも来なかった。

 身体が反転し、宙に浮いたような感覚だけを残した。

(……この感覚……前もどこかで―――)


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