一発触発
雷猫族は人の心が読めるという。といっても嘘をついているか見分ける程度の者から、思考まで読み取る者までと様々だが、その中でも「三毛」と呼ばれる者たちは能力に長けていて、特にその髪の色が特徴的なのだ。
善人には金色、悪人には白に見えるがその事実はごく一部の者しか知らない。また、三毛は女性しか生まれない。数千年に1度あるかないかの確率で生まれるという男はもはや伝説といって言い存在で、滅多にお目にかかれるものではないのだ。
この話には続きがある。雷猫族はその能力から権力者がこぞって欲しがり、数年前の大規模な抗争の際に絶滅したのだ。否、絶滅させられた。と言ったほうが正しいだろうが、それについては一般民が知るとことではない。どこかの国では数人保護されているとも聞いたことがある。きっと彼はそのひとりなのだろう。
「そうだな、私には白銀に見えるよ。とても綺麗だ」
「白銀、か。…ありがとう」
「で、お前はどうしてここにいる」
和やかな会話とは一転、剣呑な空気を抑えようともしない男が楓を睨んでいた。
「いーつきっ。そんな顔してたらダメだよー?ほら、笑顔笑顔」
無理やり口角を上げさせられた、もとい指で強引に引き上げられた青年はますます眉間に皺を寄せる。
「やめろ奏、俺は真面目な話をしているんだ」
「えーいいじゃんいいじゃん、大体樹は怖―い顔しかできないのー?それじゃあ駄目だよー」
目の前で繰り広げられる光景に緩みそうになる口元を引き締め、楓は状況を整理した。
ここは火の国で中心に近い場所であること、気づいたらここに倒れていたこと、目の間の「イツキ」と呼ばれた方は確か火狐族の族長子息だったように思う。だがそれをなぜ自分が知っているのだろう…、とそこまで考えを巡らせていたが、話しかけられたことで霧散してしまった。
「あーもういい加減にしろ!俺はこの不届きもの理由如何によっては処罰を考えねばならんのだ!お前もいい加減に答えろ!」
「私の名は楓と言ったが、正直それしかあなた方に伝えられる情報はない。気がついたらここに倒れたいたんだ。どうやってここに入ったのかも、自分がどこの国の出身かも、何一つ覚えてはいない」
その言葉に樹はますます声を荒らげた。
「そんな話が通じると思っているのか!貴様!先程から俺を愚弄しおって…!」
怒りが最高潮に達したのだろう、短気なやつだ。樹の周りには青白い炎が出現していた。その数3つ。
火狐族は個々の力に応じて出せる炎が決まってくるのだが、目の前の青年は 18くらいだろうか。族長の息子ということを除いても些か少なすぎるのではないか。
「……え、少な」
思わず呟いてしまったその言葉は運悪く張本人にも届いてしまったようで。そしてそれは気にしているところであったようで。怒りの炎はますます燃え上がった。
その激昂具合が炎でわかるとは便利なのだが、それを敵に見せてしまってはいかがなものだろうか。などといらぬ心配をしてみる。
「………っ!」
もう怒りすぎて言葉が出ないのだろう。炎をこちらへと放ってきた。と思えば奏が掲げた石へと吸い込まれていく。
「はいはい喧嘩はおしまーい。楓さんも挑発するようなこと言っちゃだめだよー?それに何も覚えていないっていうのは嘘じゃないみたいだし、とにかく長のところに連れて行くべきじゃなーいー?」
ね?と小首をかしげる奏が、この中で最年少に見えるが明らかに大人の対応だった。
雷猫族の髪色の話、楓は知っていたのでしょうか。
どうでしょうね。