第8話 死
グンちゃんとポセイドンが同時に、互いの攻撃によって吹き飛びました。
「くっ、中々やるな。槍撃手よ」
ポセイドンはそう言うと、三本の牙で地面を突きました。
その、瞬間。
地面が揺れました。地震です。
「きゃっ!」
私はその震動で転んでしまいました。
グンちゃんは体勢を崩しながらも何とか立っている、という状況でした。
そんなグンちゃんに向かって、三本の牙を構えたポセイドンが走り出しました。
「グンちゃん、逃げて!」
私がそう叫んだ時、ポセイドンの三本の牙はグンちゃんのすぐ近くに迫っていました。
グンちゃんは咄嗟に漆黒の槍を両手で持ち、三本の牙の刃と刃の間(叉の部分)に引っ掛ける事で、槍の直撃を防ぎました。
ですが。
「ウォーーーーーッ‼︎」
ポセイドンは三本の牙で、グンちゃんを押し続けます。
グンちゃんは数メートル押され、後ろにあった巨大な岩に背中を強打しました。
「………………ガハッ!」
グンちゃんの口から声が漏れました。相当なダメージを受けた様です。
グンちゃんは漆黒の槍を振り回し、ポセイドンを遠ざけます。
数歩下がったポセイドンに向かって、グンちゃんは漆黒の槍を投擲します。
ザクッ、と。
漆黒の槍はポセイドンの右肩を正確に貫きました。
しかしポセイドンは、その一撃が全く効いてないかの様に肩を回しました。
グンちゃんに加勢しないと!
そう思いました。
いくらグンちゃんと言えど、この状況は不利に見えます。
それに私には、アマテラス様から教わった魔法、獣化魔法があります!
この魔法を使えば私の身体能力は上がり、グンちゃんと共に戦えるはずです。
魔法には、その魔法を発動させる為の呪文が存在します。
早く、獣化魔法を発動する為の呪文を唱えなくては。
私は魔法を唱えようと口を開きます。
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
「…………………………」
何で!
どうして!
声が……出せない?
まさか、何者かが消音魔法を使っているのでは? とも思いましたが、私はすぐにその可能性を否定します。
魔法の種類を当てる事が出来る私に、魔法がかけられていたなら、私は気付けるはずです。
だとしたら、何故?
私は考えます。
やがて私の頭の中に、一つの答えが浮かび上がりました。
私は“恐い”んです。
石像、キマイラ、フレイ、そしてポセイドン。それらは全員、私に恐怖を憶えさせました。
もしも、三本の牙で突かれたらどうしよう。
もしも、死んでしまったらどうしよう。
そんな事を、私は考えてしまっていたのです。
グンちゃんを助ける為に、魔法を覚えたのに。
魔法を、発動出来ないなんて……。
◇◇◇◇◇
グンちゃんはその後も左肩、右の脇腹、左の太ももに漆黒の槍を投げ、貫きましたがポセイドンの戦意を、体力を削ぐ事は出来ませんでした。
ポセイドンが三本の牙で地面を突きました。
私とグンちゃんは地震に備え、身構えます。
しかし、今度の攻撃は地震ではありませんでした。
地面から大量の水が噴き出し、私達を飲み込んだのです。
私は泳ぐ事が出来ませんでした。
私は手足をバタバタさせます。
「きゃ……わぷっ、助け…て……、グン、ちゃ…んっ!」
大量の水を飲み込みながら、私は言いました。
「……今、助ける!」
グンちゃんは私の声を聞いて、私の方に泳いで来てくれました。
グンちゃんは私を抱えて、呼吸が出来る状態にしてくれました。
「ありがとう……、グンちゃん……」
私は逆にグンちゃんに助けられてしまった事に、少し申し訳なく思いながらお礼を言いました。
水が引いていきます。
グンちゃんは抱えていた私を、ゆっくりと地面に立たせてくれました。
グンちゃんを助けられなかった。
またグンちゃんに助けられた。
魔法が使えなかった。
そんな不甲斐なさから、私の顔はどんどん暗くなっていきました。
そんな私の不安そうな顔を見て、グンちゃんは私の頭を撫でてくれました。
「大丈夫、必ず勝つか——」
グンちゃんがそう言いかけた時でした。
——三本の牙がグンちゃんの背中を突き刺していました。
三本の牙はグンちゃんの体を貫通し、腹部から槍の先端が見えていました。
「ガッ、うぐっ……ゲホッ」
グンちゃんが漆黒の槍を手から落とします。
ポセイドンが三本の牙を、グンちゃんの体から抜きます。
グンちゃんはそのまま膝を突き、うつ伏せに倒れました。
ポセイドンは足で蹴って、グンちゃんを仰向けにします。
「ハァ……ハァ……」
グンちゃんの息はどんどん小さくなっていきます。
「そんな……、グンちゃん! グンちゃん‼︎」
私は必死にグンちゃんに向かって叫びます。
「…………………………」
そんな私の叫びも虚しく、遂にグンちゃんの息が聞こえなくなり、目も閉じてしまいました。
「そんな、嘘ですよね……グンちゃん‼︎」
グンちゃんは、目を開けてくれませんでした。
そんな私とグンちゃんの様子を見ていたポセイドンが、三本の牙を構えます。
「まさか……、やめてっ!」
私はポセイドンに向かって叫びました。
でも。
何の容赦もなく。
何の躊躇もなく。
グチャグチャと。
グンちゃんの身体を三本の牙が貫きます。
何度も、何度も。
グンちゃんの身体がどんどん原形を失っていく……。
右手も、左手も、右足も、左足も、胴体も……。
グンちゃんの身体から流れ出た血液が、地面を濡らしています。
「うぅ、ぐ……おぇぇ……っ」
込み上げる吐き気と私は必死に戦っていました。
ですが、ポセイドンは無表情で三本の牙を構え、グンちゃんの顔に狙いを定めます。
いやっ、……いや!
「もうやめてぇーーーーーーーーーーっ!」
私は、ポセイドンとグンちゃんの間に入って両手を広げます。
恐怖なんて物は、もう通り越してしまったのかも知れません。
「もう良いじゃないですか! グンちゃんを殺すのが目的だったんでしょ! だったらこれで充分じゃないですか! もうグンちゃんはきっと、助かりませんよ……」
だから。
「顔だけは……」
せめて。
——綺麗なまま、逝かせてあげて下さいよ。
ごめんね、グンちゃん。
これだけしか言えなくて。
勝手な事しか言えなくて。
助ける事が、出来なくて……。
◇◇◇◇◇
私は“グンちゃんだった物”の前で泣いていました。
「うっ、うぐっ……うぇ、っ……」
私のせいで、グンちゃんが……。
私がそう思っていると、ポセイドンが私の腕を掴みます。
……私も殺されるのかなぁ。
そう思いました。
ですが。
「我と共に来てもらおう」
ポセイドンはそう言うと“空を飛ぶ巨大な船”を一瞬で呼び出し、私を無理矢理乗せました。
次話は一週間後に投稿する予定です。




