第6話 高天原会談(後編)
更新が不定期ですみません。次話からは、毎週金曜日の更新に戻ります。
グンちゃんはこの異世界に迷い込んでから私に逢うまでの事をアマテラス様に話しました。
「なるほど、その様な事情だったか」
「うん。じゃあ今度は僕の質問に答えてくれる?」
「良かろう、話すが良い」
「なんでこの世界には神様が実在してるんだ? 神様達は何の為に神々の黄昏で戦うんだ?」
「槍撃手よ。其方のいた世界では私達、神はどのように伝えられていた?」
「それぞれのエリアの神が、別々の神話として語り継がれていた、かな」
「そうか……。実を言うと妾達は元々、別の世界に住んでいたのじゃ」
「別の世界?」
「“並行世界”という言葉を知っておるか?」
「うん。僕達のいる宇宙とは別の宇宙が存在している世界、みたいな物だよね?」
「まぁ、今はその程度の解釈で良かろう。妾達はとある並行世界で様々な物を創造しながら生きて来た。その世界が……」
「“日本神話の世界”、か」
「そうじゃ、他にも“北欧神話の世界”も“ギリシャ神話の世界”も、別の並行世界として存在しておる」
「それぞれの世界があるのに、何で神様達はこの異世界に集まってるんだ?」
「それはじゃな、この異世界で神々の黄昏に勝利した神が、其方の住む世界の支配者になれるからじゃ」
「どういう事だ?」
「其方の住んでいる世界に神はいないじゃろ? 其方の世界を支配する神を決める戦いが神々の黄昏なんじゃ。この異世界は言わば、其方の世界の支配者を決める“予選会場”じゃな」
「何で神様は僕達の世界を支配したいんだ?」
「人間が領土や植民地を増やすのと何ら変わらない理由じゃ……。質問はこれで終わりか?」
「いや、もう一つあるんだ」
「オーディンは僕の事を“特別な存在”って言った。どういう意味なんだ?」
「それは恐らく、其方がこの世界の人間ではないからじゃ。この世界の人間ではない其方は、この世界の魔法の効果を受けにくいからのぉ」
「そういう事か……。分かったよ、ありがとう。僕からの質問はこれで終わりだけど、コマから一つ、聞きたい事があるんだ」
「コマからじゃと?」
「は、はい! 私の“コマ”って名前にはどういう意味があるんですか?」
私は、自分の名前の意味がずっと気になっていました。一体どんな想いが込められているのでしょうか?
「妾の手駒その一、だからじゃ」
「……えっ? もっと“こんな風に生きて欲しい”とか、そんな想いは……」
「ある訳なかろう。一秒足らずで造り出せて、一秒足らずで消滅させられる。そんな使い捨ての手下に、深い名前を考えてやる義理などないじゃろ」
そんな……。
確かにアマテラス様にとって私は使い捨ての“駒”なのかも知れません。
でも。
私にとっては。
たった一人の“親と呼べる存在”なのに……。
ショックです。
悲しいです。
なんだか、目がうるうるしてきました。
グンちゃんが静かに言います。
「コマにだけお茶を出さなかったのも、コマが君にとって“どうでもいい存在”だから?」
「そうじゃ。別に使い捨ての駒をもてなす必要などないじゃろ」
「コマが空腹になるのも、何か理由があるのか?」
「あぁ、コマが空腹にならない体だとお前と一緒に過ごし、お前を監視する為の理由が無くなってしまうからのぉ。だから、敢えて知識も体力も乏しい体のコマを造ったのじゃ」
いつものグンちゃんなら、この程度で冷静さを失う事はありません。
今回も無表情で「……そうなんだ。悲しいね」くらいの事を言うだけだと、私は勝手にそう思っていました。
しかし、今回は違いました。
「——ふざけるなよっ!」
グンちゃんが叫んだのです。グンちゃんが冷静さを失うのは、この十日間で初めての事でした。
「何が使い捨てだ‼︎ 何が駒だ‼︎ コマは、アンタに会えるのを楽しみに待ってたんだぞっ!」
グンちゃんがアマテラス様の胸ぐらを掴みます。
「わ、妾に歯向かう気かっ!」
アマテラス様の危機を察したアメノウズメさんが、奥の部屋から駆け付けました。ウズメさんは言います。
「お止め下さい、槍撃手様。これ以上の行為は日本エリアを敵に回す事になりますよ」
グンちゃんはアマテラス様から手を離し、数歩下がりました。
その時です。くらっと、グンちゃんがよろけました。私は言います。
「大丈夫ですか⁉︎」
「……うん。大丈夫だよ」
「さっき叫んだのは、私の為に?」
「叫んだ? 僕、さっき何か言ったっけ?」
グンちゃんは叫んだ時の事を、曖昧にしか憶えていませんでした。
でも例え憶えていなくても、私の為に叫んでくれた事、とても嬉しかったですよ。
それにしても、グンちゃんにこんな感情的な一面もあったなんて、新たな発見です!
「妾に正面から意見を言ってくれたのは其方が初めてじゃ。少し驚いたが、感心したぞ」
アマテラス様が言いました。
良かったぁ、どうやら怒っていない様です。
「妾にはコマを道具以外として見る事は出来ない。だが確かに、コマには少し酷い言い方だったかも知れない……。そこで、コマは何か望みはないか? 詫びとして、少しの望みなら叶えよう」
「……私、“魔法”を覚えたいです」
「魔法か……。今教える事が出来そうなのは、回復魔法、獣化魔法、移動魔法くらいじゃな。まぁ槍撃手のサポート役なら、回復魔法が妥当だと思うがな」
回復魔法。傷や怪我を治す魔法。致命傷以外の傷なら完治させる事が出来る。
獣化魔法。自身の中に眠る本能を呼び覚ます魔法。体が獣の様な姿に変わり、身体能力が飛躍的に上昇する。
移動魔法。物体を移動させる魔法。気体であろうと、液体であろうと移動させる事が出来る。
私はこの十日間、グンちゃんに助けられてばかりでした。だからこそ、グンちゃんと共に戦える魔法を、グンちゃんを助けてあげられる魔法を、私は選びます。
「私は……獣化魔法を選びます!」
「そうか……、良かろう」
アマテラス様は私が戦闘向きの魔法を選択したのが意外そうでした。
「それと。コマに禁断魔法の一つ、合成魔法も教えよう。いつの日か、其方達の想像を超える強敵が現れた時、必要になるはずじゃ」
この世界の魔法は汎用魔法、特殊魔法、上級魔法、禁断魔法の四種類があります。
汎用魔法は方法さえ知っていれば誰でも使える魔法です。アマテラス様の言った三つの魔法は全てがこの汎用魔法です。
特殊魔法は汎用魔法より専門的な効果を得られる魔法です。
上級魔法は神にしか使う事が出来ない高度な魔法です。
そして禁断魔法とは、神以外の存在が相応の代償を払う事で使う事が出来る、上級魔法級の魔法の事です。
合成魔法。二つの存在を融合させる魔法。代償は“計り知れない衝撃”。
私はそれから数分間、アマテラス様に二つの魔法の使い方を習いました。
◇◇◇◇◇
魔法の使い方を教えられた私は、グンちゃんと共にアマテラス様達に別れを告げた後、日本エリアの出口に向かって歩いていました。
「……大丈夫?」
「名前の事ですか? 少しショック、ですかね……」
「あのさ、何かしたい事はない? 出来る範囲で協力するよ」
グンちゃんは私を元気付ける為に言ってくれたのでしょう。優しいですね、グンちゃん。
「そうだなぁ〜。私、グンちゃんのいた世界に行ってみたいです」
グンちゃんは旅の合間に、よく自分のいた世界の話をしてくれます。その世界には美味しい食べ物、綺麗な景色、楽しい娯楽がたくさんあるそうです。行ってみたいです!
「じゃあ、いつか元の世界に帰れる日が来たら一緒に連れて行くよ」
「本当ですか⁉︎ 約束ですよっ!」
私はグンちゃんの前に小指を差し出します。グンちゃんはその指にそっと小指を掛けました。指切りです。
「絶対、ですからねっ!」
「うん」
いつもは無表情のグンちゃんが、少し笑顔でした。グンちゃんが笑うと、なんだが私も嬉しいです。
私達には“一緒に、グンちゃんのいた世界に帰る”という目標、夢が出来ました。
私達は日本エリアの出口に辿り着きました。
私達の夢が、いつ叶うかなんて分かりません。
でもいつの日か、その夢が叶う事を信じて、私達は日本エリアを後にしました。
これで、この小説の前半戦は終了です。次話からは後半戦に突入します。
次話は金曜日に投稿の予定です。




