第5話 高天原会談(前編)
フレイヤさんはグンちゃんの手に、その大きな胸を当てながら言います。
「ダメ、ですか?」
その質問に答えたのは、グンちゃんではなくフレイでした。
「駄目に決まってんだろ! もし大怪我したらどうするんだよ‼︎」
「お兄様は黙っていて下さい。私はグンちゃん様に聞いているのです。どうですか? グンちゃん様」
「僕もフレイに賛成だよ。君を危険な目に遭わせたくないから」
「そんなに私の事を心配して下さるなんて、グンちゃん様は何て慈愛に満ちた御方なのでしょう!」
フレイヤさんはグンちゃんに抱きつきました。
心なしかグンちゃんは嬉しそうでした。
このままではグンちゃんが彼女に取られてしまう気がします。
確かにフレイヤさんはスタイルも良く、何と言ってもたわわに実った胸が魅力的です。
対して私は幼児体型ですし。その、胸もまだ無いですし……。
うぅ、でもきっと何年かすれば、私もスタイルの良い美少女になれるはずです!
——そうなればグンちゃんも、きっと……。
「どうしたの? 急に落ち込んだり、にやけたりして」
「な、何でもありませんよっ! てか私、にやけてたんですか⁉︎」
私は赤くなった自分の顔を手で覆い隠します。恥ずかしいです。まさか私の本当の気持ち、グンちゃんにバレてないですよね?
フレイヤさんが言います。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「何?」
「私は出来る事ならばグンちゃん様と共に旅をしたかったのですが、今回は兄の忠告を聞いて故郷である北欧エリアに帰ろうと思います。ですが、私は何時でもグンちゃん様の事を想っています。北欧エリアにお越しの際は、私にも逢いに来て下さいね!」
「じゃあな、槍撃手、コマ」
二人はそう言って私達の向かう方とは反対方向に歩き出しました。私達は二人に手を振ります。
「「じゃあねー!」」
私達も歩き出し、二人が見えなくなった頃。私は言います。
「無事に解決、って訳じゃないですよね?」
「うん。まだ“キマイラが消えた謎”と“フレイヤに魔法をかけた存在”が明らかになってない」
そうです。キマイラが飛び散った血液ごと消えた理由も、フレイヤが魔法をかけられた理由とその魔法をかけた者の正体も、まだ分かっていないのです。
「今はまだ分からない、でも今の僕達がする事は日本エリアに向かう事だと思う」
日本エリアでアマテラス様とお話が出来れば、グンちゃんもこの世界について色々な情報が得られるかも知れません。
そうなれば、私達のこの旅にも目的が生まれるはずです。
今のままでは、ただ襲い来る幻獣と戦っているだけですから。
「そうですね。出来る事からやって行きましょう!」
さて、と。
私には今日こそやり遂げたい事があるのです。それは“グンちゃんと手をつなぐ事”です。
実はまだこの一週間、一度も手を繋げてないのです。
私は勇気を出して、グンちゃんの手を握ろうとします。
ドキドキと心臓の音が大きくなっていきます。
ふぅ、ふぅ……よし!
「さぁ! 行きますよ、日本エリア‼︎」
ギュッ、と。
遂に私はグンちゃんの手を握りました。
「……! そうだね、行こう」
そう言って私とグンちゃんは、日本エリアに向かう長い道のりを再び歩き出します。
この日、グンちゃんは異世界に迷い込んで唯の八日目にしてこの世界で最強の存在“神”に勝利したのでした。
◇◇◇◇◇
グンちゃんが神と戦ったあの日から二日後、私とグンちゃんが出逢って十日目。私達は遂に日本エリアに辿り着きました。
その日本エリアの中でも特に神聖な場所の一つ、高天原を私達は訪れています。
一言で言うなら“光り輝く草原”の様な場所でした。
「ここが、高天原……」
ここに私の主、アマテラス様がいるのですね。
私は造り出された瞬間からグンちゃんの元に召喚されていたので、アマテラス様とお話した事は疎か、まだお会いした事もないのです。
私にとっては親とも呼べる存在。
一体どんな御方なのでしょう?
そんな事を考えていると、一人の女性が私達の元へと歩いて来ました。
女性は二十歳くらいの見た目でした。とても美人で髪型はポニーテールでした。背が高く、胸も大きいです。赤の派手な着物を、胸元を大きく開いて着ています。
「一緒に来て下さい。奥でアマテラス様がお待ちです」
私達は女性に案内されて、城の様な建物がある場所まで歩きました。私達は建物の中に入りました。
「アマテラス様、彼をお連れしました」
そこには橙色の着物を着た上品な女性が座っていました。着物には金色の模様が施されていました。年齢は十八歳くらいで、長い髪を下の方で束ねています。どうやらこの方がアマテラス様みたいです。
「よく来たな、槍撃手。そこに座れ、聞きたい話があったのじゃ」
私達はアマテラス様と対座しました。赤い着物の女性がアマテラス様とグンちゃんにお茶を出してくれました。
……あれ、私の分は?
「ありがとー! ウズメ〜」
アマテラス様は、そう言ってすぐ。
「……じゃなかった! ゴホン、下がって良いぞ、アメノウズメよ」
アマテラス様は言い直しました。アマテラス様は少し顔が赤くなっていました。
「実は僕達も、聞きたい事があってここに来たんだ」
グンちゃんはアマテラス様の様子を気にせず言いました。
「良かろう。じゃが、妾の聞きたい話を先に話してもらうがな」
「いいよ、その話ってのは?」
「何故、其方が北欧エリアに伝わる神器を持っているか、についてじゃ」
「それは……」
グンちゃんは話し出します。この異世界に迷い込んだ日の事を……。
◇◇◇◇◇
その日、グンちゃんは目覚めると北欧エリアにある大きな神殿に居たそうです。
「ここは……どこだろう?」
目を覚ました時には、既に記憶は無かったそうです。
「ここは“ヴァーラスキャールヴ”、私の居城だ」
そこには一人の大人の男性が立っていました。帽子を深く被り、片目には眼帯をして、顎髭を蓄え、杖を持ち、肩には二羽のカラスが留まっていたそうです。
「我が名は“オーディン”。ここ、北欧エリアの最高神だ」
オーディンさんはそれから、自分が北欧エリアの外れで倒れていたグンちゃんを助けた事、今この世界の住人達は神々の黄昏に向けて戦力を集めている最中だという事、その二つをグンちゃんに話したそうです。
「へぇ、この世界も大変なんだね」
「あぁ、そこでお主に一つ、頼みたい事があるのだ」
「何?」
「神々の黄昏が始まった際に、北欧エリアに加勢して欲しいのだ」
「僕が仲間になっても、神様の戦力になるとは思えないけど?」
「今は一人でも多くの人手が欲しいのだよ。……それにお主は少々“特別な存在”だからなぁ」
「……? でも僕強くないよ、武器とかも持ってないし」
「その点なら問題ない。お主に“これ”を授けよう」
そう言って、オーディンさんは漆黒の槍をグンちゃんに渡しました。
「これで協力してもらえるかね?」
「分かった、出来るだけ協力する。助けてもらった恩もあるから」
「神々の黄昏が始まるまでは自由に生活してくれて構わない。このエリアを出ても構わない。それと、これからはお主の名前を便宜上“槍撃手”と呼ばせてもらおう」
「いいよ、僕はこれから旅に出てみようと思う。僕の記憶について、知っている人がいるかも知れないから」
そう言って、グンちゃんはヴァーラスキャールヴを出たそうです。
その数時間後。
北欧エリアを出てすぐの場所で。
「其方が異世界より召喚された人間ですね。私は其方の監視役。名はコマです。これより其方は我々の監視下に置かれます。日本エリアに敵対すると思われる行為を行った場合には武力行使も辞さない所存ですのでお気を付け下さい」
グンちゃんは私と出逢ったのです。
次話は11月11日(火曜日)に投稿する予定です。




