第3話 勝利の剣(後編)
今回も後書きに補足のコーナーがあります。
グンちゃんとキマイラは睨み合ったままお互いに動きません。恐らく戦う者同士にしか分からない間、タイミングの様な物があるのでしょう。
キマイラの口から血が滴る音と、森の木々が揺れる音だけが辺りに響きます。
てか、体を貫かれても動けるなんてキマイラはどんだけ生命力が強いんですか!
一枚の木の葉が風に巻き上げられ、ひらひらと地面に落ちた、その時。
地面を強く蹴り、キマイラがグンちゃんに向かって駆け出します。グンちゃんはキマイラに狙いを定め、漆黒の槍を投擲します。
しかし、漆黒の槍はキマイラではなく、天空に向かって飛んで行ってしまいました。
まさか、グンちゃんがこんな重要な局面でミスを⁉︎
そんな私の憶測はすぐに否定されました。漆黒の槍が急降下し、グンちゃんの近くに迫っていたキマイラの背中を射抜きました。漆黒の槍はキマイラの体を貫通し地面に突き刺さっています。キマイラは背中に刺さった漆黒の槍を抜こうと必死にもがいています。
この姿を見ると、少しだけ可哀想な様な気がします。
グンちゃんが身動きの取れなくなったキマイラに言います。
「これ以上、この子を狙わないで欲しいんだ。君の命まで、奪いたくないから」
暴れていたキマイラは少し大人しくなりました。人間の言語が理解出来る様です。
その時でした。気を失っていた銀髪の少女が目を開いたのです。私は彼女に声を掛けます。
「大丈夫ですか?」
コクリ、と彼女は首を縦に振ります。彼女が無事でよかったです。純粋にそう思いました。
「じゃあ、槍を抜くね」
グンちゃんがそう言うと漆黒の槍はグンちゃんの手元に戻って来ました。
グンちゃんがキマイラに背を向け、私と銀髪の少女に向かって歩いて来ます。
しかし、キマイラは私とグンちゃんが思っているよりも狡猾でした。キマイラがグンちゃんに飛びかかったのです。私は叫びます。
「——逃げてっ!」
「……ごめんね」
グンちゃんはそう言うと、振り向きざまに漆黒の槍を投げます。
漆黒の槍がキマイラの心臓を撃ち抜きました。キマイラは衝撃で後方に思い切り吹き飛びます。大量の血が辺り一面に飛び散りました。木も土も草も、文字通り血塗れに。その光景を見ていると少し気分が悪くなって来ました。
うっ、私には少し刺激が強かった様です。
キマイラが動かなくなりました。どうやら私はまたグンちゃんに助けられた様です。
「グンちゃん、ありが」
私がグンちゃんにお礼を言おうとした時でした。銀髪の少女が走り出し、グンちゃんに抱きついたのです。
今日会ったばかりの女の子に抱きつかれるなんて、グンちゃんはライトノベルの主人公か何かですか!
「…………何?」
グンちゃんは冷静に彼女を引き離します。彼女は口をパクパクさせていました。何かを言っている様です。
「ごめん、何を言っているのか聞こえない」
グンちゃんと彼女の距離はほとんどありません。勿論、辺りに雑音が響いている訳でもありません。それなのに話し声が聞こえないなんて、彼女はよっぽどの恥ずかしがり屋さんなのでしょうか?
でも彼女は顔が赤くなる程、叫んでいるみたいです。
それでも、彼女の声はやはり私にもグンちゃんにも聞こえませんでした。もしかして、と思い私はグンちゃんに告げます。
「グンちゃん、もしかしてこれは“魔術”かも知れません!」
そう、魔術。彼女には何らかの魔法がかけられているのではないでしょうか。
「でも、どんな?」
グンちゃんが聞きます。実は私は魔術に詳しいのです。自分自身が“魔術の様な物”で生み出された、という事情もあって、魔法の種類くらいなら当てる事が出来るのです。
「恐らくあれは特殊魔法の一種、消音魔法です」
消音魔法。ある物体に向かって発動する事でその物体の発する音全てを消す事が出来る高度な魔法です。それならば、彼女が体中を傷だらけにしても助けを呼ばなかった理由も説明出来ます。
彼女は声を“出さなかった”のではなく、“出しても聞こえなかった”のです。そう私は推測しました。
「なるほど、すごいねコマは」
そう言ってグンちゃんは私の頭を撫でてくれました。
「えへへ〜」
少し恥ずかしいですけど、それ以上にとても嬉しいです。
彼女は自分に魔法がかけられていたと知って、ひどく驚いていました。
グンちゃんが彼女に聞きます。
「魔法を解きたいなら、協力するよ」
「——、———。」
彼女は返答している様ですが、やはり私達には聞こえません。その事に気付いた彼女が首を縦に振りました。
なるほど、声が駄目ならジェスチャーで。という訳ですね!
魔法を解く、といっても私達三人はその方法を知りません。
「うーん、どうすればいいのでしょうか?」
私達はその場で考え込んでいました。
その時。
「おいテメェら! 俺の妹に何してんだーっ!」
一人の少年が上空から降って来ました。
◇◇◇◇◇
端正な顔立ち、短めの銀髪、そして、鍛え抜かれた肉体。歳は十八くらいに見えます。まるで囚われたお姫様を助けに来た勇者の様でした。腰に吊り下げられた鞘には長剣が収められています。
少年は綺麗に着地すると私とグンちゃんに言います。
「テメェら何者だ?」
会ったばかりの人に“テメェ”とはいきなり失礼な方ですね!
私は言います。
「私達の名前を聞きたければ、まず自分から名乗って下さい!」
「俺か? 俺は“フレイ”。北欧エリアの神の一柱だ」
神。私もグンちゃんも実際に見るのは、今回が初めてです。
目の前に得体の知れない存在がいると思うと、急に怖くなってきました。でも、恐怖に屈せず私は言います。
「私の名前はコマ。そして……」
「僕は、槍撃手」
フレイは少し驚いたそぶりを見せながら言います。
「そうか……テメェが! 一週間前に異世界から迷い込んだっていう、あの槍撃手か!」
異世界から来た人間、グンちゃんの噂は各エリアに広まっている様です。
「それでフレイさん、私達に何の用ですか?」
「テメェらの後ろにいる銀髪の美少女、そいつの名前は“フレイヤ”。俺の妹だ」
衝撃の事実、と言うよりは妥当な展開でした。銀髪の時点で、もしかしてと思いましたし。
「今、彼女は魔法を」
私がそう言った所で、フレイが割り込んで来ました。
「俺の可愛い妹をこんな傷だらけにして、ただで済むと思うなよ!」
そんなっ!
完全な誤解です。彼女の傷は森の枝で切った傷です。その事を説明しないと!
「フレイヤさんの傷はキマイラから逃げる際に森で負った傷です。そこに、ほら!」
私は指差します。キマイラの死体があるはずの場所を。
…………………………あれっ?
そこには何もありませんでした。
ただの木。ただの土。ただの草。
それだけしか、無かったのです。
キマイラが倒れているはずじゃ?
「キマイラなんてどこにも居ないじゃねぇか。吐くならもっと、ましな嘘を吐きな!」
私は焦りながらもフレイに言います。
「う、嘘じゃありません。本当にキマイラがいて、それをグンちゃんが倒したんです!」
「テメェの説明には矛盾しか見当たらねぇよ! まずキマイラは簡単に倒せる程弱くねぇ。仮に倒したとして、その死体は? 血は? どこにあるんだよ!」
ぐうの音も出ません。証拠がいつの間にか、無くなっていたのですから。
すると、フレイは閃いた様に言います。
「そうだ、フレイヤに聞けばいいじゃん。どうなんだ、フレイヤ」
フレイヤさんが答えます。この答え方次第では、フレイも納得してくれるかも知れません。
フレイヤさん、お願いしますよ。
「——、———。」
あっ! フレイヤさんは今、声が出せないのでした。フレイの怒りは頂点に達した様でした。
「俺の妹を、声も出せなくなる程痛めつけたって事かよっ! ゼッテーに許さねえぞーーーっ!」
そう言ってフレイは剣を抜きます。私達は神を怒らせてしまった様です。
完全な誤解なのに〜っ!
「コマ、下がってて」
まさかグンちゃん、戦う気ですか!
いくらグンちゃんが強いと言えど、神と戦って無事で済む訳がありません。
それでも、グンちゃんは漆黒の槍を構えます。
この日、グンちゃんは遂にこの世界で一番強いとされる存在“神”と戦う事になってしまったのです。
神器図鑑のコーナー
勝利の剣
・この剣を持つ者は必ず勝利する。
・宙を飛び、自動で敵を殲滅する。
次話は一週間後に投稿する予定ですが、投稿が遅れる可能性があります。
その際は活動報告で事情を説明する予定です。




