第16話 黄金の槍(後編)
大きな扉を開けて、私とグンちゃんはオーディンさんのいるという部屋の中に入ります。
扉を開けるとそこにはオーディンさんが立っていました。
「待っておったぞ、槍撃手よ」
……待っていた?
……オーディンさんの部屋を訪ねる事になったのは、ついさっきなのに?
まるで私達が来る事を知っていたかの様に、オーディンさんは言いました。
私はこの部屋を見渡します。
この部屋は一つの物体を除き、何も無いただの広い部屋でした。
そう、この部屋には一つ異彩を放っている物体がありました。
天井まで届く高さの、大きな十字架の形をした柱。
硝子か氷の様な物で出来ているらしく、透けて中が見えていました。
そして、その中には……。
——一人の少女がいました。
年齢は十四才くらい、顔は可愛らしく、この世界ではあまり見かけない服を着ていました。
そんな少女が、透明な柱の中に埋め込まれていたのです。
「——うっ!」
グンちゃんはその少女を見た途端、急に頭を抱え、膝を突きました。
「大丈夫ですか⁉︎ グンちゃん?」
私は慌てて、グンちゃんに近寄ります。
「……大丈夫。それより、キマイラの話をしないと……」
グンちゃんはそう言うと、オーディンさんに向かって話し始めました。
◇◇◇◇◇
「このお城の中の一部屋に、瀕死の状態のキマイラがいたんだ」
「ほぉー、それは物騒じゃな」
オーディンさんは相槌を打ちながら、グンちゃんの話を聞いていました。
「そのキマイラには口、背中、心臓を槍で貫かれた様な傷があったんだ」
「それで?」
「その傷って、五日程前に僕が戦ったキマイラと同じ傷なんだ。これって、偶然かなぁ?」
「……。」
「それでね、その五日程前に戦ったキマイラは急に僕達の前から姿を消したんだ。そしてキマイラが消えた事で、僕達はフレイから誤解され、戦う事になってしまった」
「…………。」
「これって、何者かが僕達をフレイと戦わせようと、仕組んだ事なんじゃないかな?」
「………………。」
「更にその時、フレイヤは声を失っていた。これはフレイヤに誤解を解かれて、僕達とフレイの戦いを邪魔されたくなかったから。もしくは助けを呼べなくして、キマイラに確実に襲わせる為」
「……………………。」
「僕は、君を疑っているんだ。オーディン」
「疑うといっても、根拠はあるのか? 我に罪を着せようとする者がいるかも知れん」
「まず、君の居城からキマイラが見つかった事。これは立派な根拠だと思うけど」
「どの様にしてキマイラを一瞬で城まで運んだのか、その方法は分かっておるのか?」
「移動魔法。この魔法を使えば、キマイラを一瞬で移動させる事が出来る。この魔法は汎用魔法だから、神様の君なら使うのは容易なはず」
「じゃが、それだけで我を黒幕とするのには無理があるのではないか?」
「それだけじゃないよ。フレイヤには消音魔法が掛けられていた。この魔法には“ルーン文字”が使われていた。ルーン文字は北欧エリアの神々しか扱えない秘術だってコマが言ってた。君なら使えるはずだよ」
「じゃが、我がそんな事をするメリットは何じゃ? 何の為に味方であるはずのフレイヤ達と戦わせる様な事をする?」
「火種が欲しかったんじゃないかな? 他エリアと戦う為の。君は神々の黄昏を中止するのを躊躇っていた。僕を“フレイヤを襲った他エリアの兵士”とか“フレイに戦いを挑んだ敵兵”に仕立て上げようとしたんじゃない?」
「…………………………。」
◇◇◇◇◇
沈黙。
グンちゃんの推測が正しかったのか、オーディンさんは黙り込みました。
しかし。
「流石ですね。槍撃手。やはり私の予想は正しかった」
オーディンさんは急にそう言いました。明らかに口調が変わっていました。口調だけではなく白髪のカツラを取り、長かった口髭を取り、帽子を脱ぎました。老人の様だった見た目が変わっていきます。
最終的に、オーディンさんは青年の様な姿になってしまいました。
変装していたのです。
「それが、本当の君の姿?」
「えぇ、そうですよ」
「ところで、——うぐっ! 誰なんだ、彼女は?」
グンちゃんは塔の中に囚われている少女を見た途端、また頭を抑えました。なんだか、辛そうです。
「あらあら、彼女の事を忘れてしまわれたのですか?」
オーディンさんは言います。グンちゃんが忘れているという少女の名を。
「——十六夜七海。貴方の“妹”ですよ」
次話は一週間後に投稿する予定です。




