第10話 覚醒
私は、目の前に現れたこの世にいないはずの存在“グンちゃん”に向かって言います。
「ど、どうしてグンちゃんがここに⁉︎ 本物、ですよね……?」
「うん。助けに来るの、遅くなってごめん」
「いいんですよ、そんな事は……。それより自分の心配をして下さい! 身体は、大丈夫なの?」
グンちゃんの身体は三本の牙によって、ズタズタに引き裂かれたはずです。
でも、グンちゃんは。
まるでそんな事、大した問題では無いかの様に。
「大丈夫。完全復活、ではないけどね……」
そう言いました。
何で、グンちゃんの身体が治っているの?
絶対治らないどころか、即死級の大怪我だったはずなのに。
そう、私がそう思っていると。
「……アスクレピオス、か」
漆黒の槍に貫かれたはずのポセイドンが言いました。
くっ、やはり胸部を一度貫いたくらいでは、ポセイドンにダメージを与える事は出来なかった様です。
「そう、確かそんな名前の神様だったよ」
「アスクレピオス、ギリシャエリアにおける医療の神。どんな大怪我でも元通りに治す事が出来る神だと言われている。アイツは怪我人なら敵味方問わず助けようとするからなぁ、困った奴だ」
なるほど! そのアスクレピオスさんに助けてもらった、という訳ですね。
「でも、そんな都合良くアスクレピオスさんが近くを通りかかった、なんて偶然があったんですか?」
私はグンちゃんに聞きました。
「偶然じゃないよ。ウズメさんが呼んでくれたんだ」
「ウズメさんが?」
アメノウズメ。高天原で、アマテラス様と一緒にいた神様ですよね。
「うん。アマテラスは僕が負ける事態を予測していて、念のためウズメさんに助けを呼んでもらっていたんだって」
アマテラス様がグンちゃんを生き延びさせたのは、グンちゃんを心配してではなく、恐らく、それが自分の得になると考えたからでしょう。
アマテラス様、やはりしたたかなお方です。
「例えアマテラス様にどんな策略があろうと、とにかくグンちゃんが無事で良かったです!」
「そうだね、完全に治った訳じゃないけど……」
グンちゃんはそう言って、自分の左腕に目をやります。
グンちゃんの左腕は、一部の皮が引きつっていて、とても痛々しかったです。どんな傷でも治すはずのアスクレピオスさんの力でも、完治させる事が出来ないほどの傷。
ごめんね、グンちゃん。私が足を引っ張らなければ、そんな怪我しなくて済んだのに……。
グンちゃんがポセイドンに向かって言います。
「コマを返して欲しいんだけど?」
「コマはギリシャエリアに連れて行く。よって無理だ!」
「君に勝てば、返してくれる?」
「あれほどの敗北を味わって、まだ歯向かう気か⁉︎」
「今度は負けないよ」
そしてグンちゃんは私に言います。
「コマ、下がってて」
今までの私なら、グンちゃんとポセイドンから離れて、遠くからグンちゃんを応援していたでしょう。
でも、今は違います!
確かに、神と戦うのは恐いです。
もしも、三本の牙で突かれたらどうしよう。
もしも、死んでしまったらどうしよう。
そう思います。
でも!
グンちゃんが傷付く事の方が、グンちゃんが死んでしまう事の方が恐いって事に、私は気付いたんです‼︎
「私、グンちゃんと一緒に戦います! 私、この前の戦いで何も出来なかった。グンちゃんを助ける為に、魔法を覚えたのに……。だから、今回こそは! グンちゃんに守られてるだけじゃなく、私がグンちゃんを守りたいんです‼︎」
「……分かったよ、コマ」
そんな私の決意を聞いて、ポセイドンが叫びます。
「そんな幼女が一人参戦したところで、我の勝利は揺るがない! 二人まとめてかかって来るがよい!」
私はアマテラス様から教わった魔法、獣化魔法を発動する為の呪文を唱えます。
「——我に眠りし白き獣よ! 今こそ、その血を、魂を解放し、その果て無き力をこの世界に轟かせよ! 獣化魔法っ‼︎」
そう叫んだ瞬間、私に異変が起きました。
身体に白い体毛が生え、髪は白く変色し、目は紅く変色し、うさ耳のカチューシャが消え、自分の耳がうさぎの耳の様な形に変化しました。
「これが……魔法の力!」
私の身体には力がみなぎっていました。
これなら、私もグンちゃんと一緒に戦えます!
次話は一週間後に投稿する予定です。




