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終焉の紅華咲く刻  作者: 飴玉
残り30日
3/3

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  ◆◆ 3 ◆◆


「暑い、ですね。此処は夏ですか。」

一人暑さを愚痴りながら歩く。

人気のない道を通って居るのもあるが、未だ【選ばれた5名】である事はばれていない。

けれども、明日にでも新聞に載れば嫌でも知れ渡る。今日のうちに人の居ない処に行かなくては。

では其れは何処だ。

自分に問うても答は判らない、の一言に尽きる。

此の世界は複数の国に分かれ、国一つ一つに王が存在するが凡ての決定権は王立都市と決められたアマトがある国の王である。

国ごとに様々な季節がある。

此処は今は夏だが、私の居た村は四季がなく比較的住みやすかった。

暗く狭い路地で、少しはひんやりとするかと思ったが其れは無かった。

母があるだけのお金と食料を持たせてくれて荷物が多かったら移動に不便だということで本当に必要最低限しかない。

栄養補助剤、財布、保存食、携帯ラジオ。

持っていきたかった本やものは沢山ある。

其れでも、我儘は云えない。

今の私は存在することが罪なのだ。

裏路地を抜けた大通りは少なからず人が居てばれたらという不安に駆られる。

大丈夫、早く通り過ぎてしまえば良い。

「・・・【選ばれた5名】」

後ろでぼそりと呟いた少年に驚いて思わず振り返る。

其の行動こそが目立つ原因になるとも思ったが、少年の声は意外と皆に聞こえていたらしく皆いきなり少年の方を見つめる。

ばれた。こんな直ぐに。

「・・・あれ、あの白い髪飾りの女。確かあれ、【選ばれた5名】の一人、【トウカ】って人」

私じゃ無かった、と安堵したと同時に同じ境遇の冬霞さんを見つめる。

ショートボブの右耳の近くに白い花の髪飾りを挿した紙袋を抱く女性が肩をびくりと震わせた。

彼女に群がっていく人々。此れは怖い。

少年は何故冬霞さんは判って私は判らなかったのだろう。

若しかして、私は不細工で目があてられなかったとかじゃないよね。

今此処で皆が冬霞さんのもとに集まる中一人去ろうとすると目立つし、放っておけないと老婆心から野次馬のふりをして近づく。

「お前、【選ばれた5名】の一人か?」

「ちっ違います人違いです!」

父のようなヤクザ風の男性に睨まれて怯えの色を見せる冬霞さん。

「じゃあ、名乗れよ」

「・・・・・・・・、」

黙った冬霞さんに其れみろと肩を掴んだ男性の手を冬霞さんの手が払い落とした。

「・・・今日、買い過ぎちゃったから貰ってくれるかな?」

怖いくらいの笑顔の冬霞さんが紙袋から何かを取り出した時に誰かに腕を引かれる。

「な、何」

黙ってろと数メートル冬霞さんから距離をとったあの少年が立ち止まって何だと尋ねる間もなく凄い爆発音がした。

「姉ちゃん、手榴弾大好きだから」

「・・・お姉、さん?」

そうだと肯定する少年は、確かに云われてみれば少しは顔が似てるかもしれない。

「血は繋がってないけどな」

矢張りあまり似ていない。

「あの、助けてくれて有難うございます」

「べ、別に・・・び、美人が怪我しそうなの放っておけねぇしな!」

顔を真っ赤にさせて怒鳴る少年。

ツンデレ族かな。

よく見ると、微妙に見覚えのある顔。

何処だっけ。

「・・・【アキト】。どういう心算?」

後ろから、威圧感たっぷりの声。

私は何もしていないのだけどおずおずと振り向くと手榴弾を片手に笑顔の冬霞さん。

「アキトって・・・【選ばれた5名】の?」

「姉ちゃんが名前呼ぶからばれちまったじゃねぇか!」

「あんたがふざけた事云うから手榴弾使っちゃったでしょう!」

ぎゃーぎゃーと言い争いを始める二人。

兄弟で、【選ばれた5名】の二人。

詰まり、秋杜さんと冬霞さん。

「・・・あの、私ソラって云います。同じく、【選ばれた5名】の」

私の控えめな申告に言い争いをやめた二人が此方を向く。

「ソラ?貴方が?」

「青い髪だけどよ、こんな処に居る訳ねぇだろ」

正直に云って信じてもらえなかったなんて初めての経験だ。

結構心にくる。

「私、テレビで自分が何故か【選ばれた5名】だって知って、吃驚して両親の処に居たら迷惑になるから、きっと周りの人に殺されちゃうかもしれないので何処かへ逃げようと・・・あの、何処か人の居ない処で話しませんか」

冬霞さんから了承を得て、では行こうと思って居たら秋杜さんに引き留められる。

「お前がソラって証拠はねぇだろ。其れが嘘で俺等を殺す為に人気のない処に誘う罠だって可能性もある。俺等は死ぬ気なんてねぇんだ」

冬霞さんが疑うなと咎めるが確かに其の通りだ。

私は自分が【選ばれた5名】と証明なんて出来ない。

「お二人はどうして自分たちが【選ばれた5名】だと判ったんですか?」

「なんでって、だって親が教えてくれて泣きながら逃げろって」

矢張り何処の親も自分の子供は殺せない。

醜い世界なのに、其れだけは変わらない。

事件件数が殺人だけで一日千にも及び其のくせ科学の発達でクローン人間などの誕生。

奇妙なからくりで減るどころか増え続ける人口。

「どうしたら、信じてもらえますか?」

「どうしたらって・・・ああ、【登録証】持ってるか?」

「むしろ、持って居たらばれちゃうので家に置いてきました。貴方達もですよね?」

【登録証】とは其の名の通り、出身、生年月日、名前などが登録された一人一つ渡される保険証。

私はおいてきた。だが、普段は絶対持ち歩く大切なものだ。

肯定だろう、頷く二人に連れられて何故か帽子屋に入る。

信じてもらえたのだろうと思うと少し嬉しくなる。

一か月なんて、きっとあっという間。


◆◆ ◇ ◆◆

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