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終焉の紅華咲く刻  作者: 飴玉
残り30日
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  ◆◆ 2 ◆◆


「全国民に告げる。王の意向により、【選ばれた5名】を公表する。

春風(ハルカゼ)】【夏譽(カヨ)】【秋杜(アキト)】【冬霞(トウカ)】【ソラ】此の五人が居なくなれば此の世界は救われる。繰り返す――此の者たちさえ居なくなれば我々は生きる事が出来る。」


居なくなる。詰まり殺すという事。

自分が生き残るためとはいえ、王も惨い。

そう思いながら見ていたテレビ。

あげられた名に息が止まった。

私が一体何をしたの。

何気なく此方に耳を向けていた母が発泡酒の入ったグラスを床に落とした。

硝子が足元まで広がってくる。

酔って居た父が眼を瞠る。

「今・・・なんて」

テレビ画面に映されたもう一人の私。

見た事もない、他の4人の顔。

つきつけられた現実。

其れを前に、おかしいくらい冷静な声が出た。

「母さん・・・私を殺しますか

父さん、警察に連絡しますか」

此れから命を狙われるのは私だろうに、母が自分のことのように涙を零す。

硝子の飛び散って居る中、此方に歩んでくる。

父がふらつく母を支えながら私の身体を強く擁いた。

「莫迦な事云うんじゃない!!娘を売るよう真似、出来る訳ないだろう!」

そうだと賛同しながら私の手を握る母の涙が手の甲に落ちた。熱い。

「・・・じゃあ、如何するんですか。若し近辺の人が此の番組見て居たら、直ぐに私を殺しに来ますよ」

冷静な声に自分でも怯えながら左目から涙が伝った。

何も考えられないし、考えたくない。

つきつけられた現実が与える衝撃は大きかった。

「此処を、出ます。

此の村から何処か、遠くへ、テレビも人も何も無い処に逃げます。此の世界は終わり貴方達は死ぬ事になりますが、赦してくれますか」

育ててくれた母親。

いつもいつも穏やかで、料理なんてさせたら此方がひやひやして。

いつも酒ばかりのアルコール中毒の情けない父。

此のヤクザの様な顔立ちでサービス業に勤めて居る。

何故私だったのか。

其の答を誰か与えてほしい。

神の予言を繰り返す声が聞こえる。

「――よって王は、此の5人の者の身柄確保を決定しました」

其れは、王が私を含む5人を殺して良いですよと云ったも同然だ。

そして、王の云う事は絶対。王がルール。王こそが凡て。

「早く・・・・・・早く逃げて」

泣きじゃくる母の肩を抱いて父も同意を込めたように頷く。

幼子をあやす様に父の大きな手が私の頭に乗る。

其処で初めて強がりが崩れた。

「・・・・ありがとう」

溢れる涙で閉ざされる視界。

せめて最後に、二人の姿を焼き付けたい。




「忘れものは無い?ハンカチは?財布を落としちゃ駄目ですよ」

「・・・母さん、遠足じゃないんですから。今まで、本当にありがとうございました。

さような――いってきます」

きっとただいまなんて、云えないけれど。

いってらっしゃいと笑った母からはおかえりなんて聞けないけれど。


何故、私が選ばれたの。

私が一体何をしたの。

同じ名前で違う種類の頭上の空が私の気持ちも知らず澄みきって居た。


  ◆◆ ◇ ◆◆

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