「ヤクザ」「欝」「バトルモノ」
「はぁ……」
欝だ。
ひたすら鬱だ。
そもそもの発端は、ブラックの噂のある会社を受けたときのこと。
「えー、履歴書には体力に自信ありとありますが」
「押忍! ……じゃなくて、はい! 高校では硬式野球、大学でもラグビーで鍛え上げました!」
「夜勤は平気ですか?」
「任せてください! この鋼の肉体があれば、完徹だって耐えられます!」
「なるほど、その体があれば残業代なしでも平気ですね。合格!」
「ありがとうございま……おい、ちょっと待て」
「週休ゼロ日で毎日残業十時間かつ月給十万円だけどがんばってくれたまえ!」
「阿呆かぁ!」
と、ちゃぶ台よろしく机をひっくり返したら社長に直撃。見事前科一般に。
まあ、会社の不正も同時に明らかになったおかげで、情状酌量はたっぷり認められ、反省文であっさり放免。そうじゃなければ豚小屋送り確定だったらしい。
ともあれ、世間は前科者につらく当たる。
あっちの面接を断られ、こっちの面接を断られ、エントリーシートの受付までも弾かれる始末。完全に詰んだ。
就職浪人も許されず、このままでは大卒無職というエリートクズになってしまう。
「どこでもいい! どこでもいいから、俺を雇ってください!」
この際ブラックでもいい。せめて職歴が得られれば、転職でそれなりの未来が開けるはず!
しかし、どうやら俺の噂は広まっているらしく『ブラック企業内ブラックリスト』というわけのわからないものに名前を連ねてしまっているそうで、ブラック企業にすら敬遠される。
で、精神がいっぱいいっぱいになったところで、
「坊主、おめぇの噂は聞いた。俺らにはおめぇが必要だ」
「ほ、本当ですか」
「おめぇの腕っ節は本物だろ?」
「バトルモノの漫画でも見かけないくらい鍛えに鍛えてあります!」
「なら、おめぇのケツは俺らが持ってやる。来い!」
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
うん。
頬に傷があって、サングラスしてて、リーゼントで、肩で風を切って歩く――あからさまなスタイルなのにどうして気付かなかった、俺!
「おら、集金行くぞ坊主!」
「お、押忍!」
ああ、鬱だ。
転職ってできるのかなぁ……。