プロローグ
雨の中、路地裏で少年は泣いた。
泣き叫んで、“彼女”を抱きしめた。端からは服を抱きしめているようにしか見えないが、それでも構わなかった。
“彼女”は、消えてしまった。その能力と共に、ある一人の少女に依って、体ごと吸収されたのだ。
その美しくも残酷な少女--ゼロ・シュヴァルツは、少年を見下ろして言う。
「貴男が、雷王の力を半分受け継いだ人間……? 雷王一人を食べても、お腹がまだ空いているのは、そのせいだったのね……」
少年はゼロを睨み付ける。瞬間、ゼロは少々戦慄を感じ、同時に微笑んだ。
少年の身体から--主に右腕から、少し発電したのだ。
だが、そのエネルギーを前の雷王以上と感じ、ゼロは微笑み、口から涎を垂らした。
「ふふ……本当に美味しそうなエネルギー。だけど、足りないわ。もっともっと育ってもらわなくちゃね。では、御機嫌よう」
ゼロが背を向けた時、少年は声を上げた。
「待てよ」
「……何か?」
ゼロは顔だけ後ろに向かせた。その目に映ったのは、少年の凄絶な怒りだった。
「今度会った時は、絶対にあんたをぶん殴る。この右腕の一撃を完成させて、あんたを穿いてやる……!!」
ゼロはクスリと笑い、前へ歩いていく。
「楽しみにしてるわ。貴男も吸収されるのがオチだろうけれど、せっかくのご馳走だもの、それくらいのワガママはさせてあげるわよ。……私に辿り着ければ、の話だけどね」
快活な笑い声と共に、ゼロは路地裏から消え去った。
去った後、少年は服を抱き寄せて、また泣いていた。
全ては、一年前の四月から始まった。