表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5分のお茶会と半分の月  作者: くらげ
5分のお茶会と半分の付き
7/12

薬草

 それから1週間後。


 イリーナはいつもよりか早い時間にアレスの家に向かっていました。


 もう、その頃には、彼の庭の雑草が、危険な森から株を持って帰ってきて大事に育てた薬草だと言うことは知っていました。その薬草を晴れた日に何日も天日干ししていることも。


 今日みたいな晴れた日には薬草を天日干ししているアレスの姿が見えるかもしれません。


 家の裏からごそごそと音がします。

 いきなり声をかけるとまたアレスに驚かれますので、イリーナは家の角からそっと覗いてみました。

 薬草のざるが地面に置かれ、それに子供たちが群がっています。


 地面にざるがひっくり返っていたのです。


 子供の一人がイリーナに気づき「やべっ」と言った途端、イリーナは「こぅらぁー」と怒鳴って追っかけていきます。


 散っていく子供たちの一人を捕まえることに成功したイリーナ。

 ざるをひっくり返した理由を尋ねると、子供は「葉っぱをひっくり返しただけじゃないか」と言って、まったく反省していません。



「なんで子供たちは悪いことをするの?」


 ミクは眉を顰める。


「うん。それはな。もうちょっとしたらわかるよ」



 イリーナは捕まえた子供を親の元へ連れて行きます。

 が、子供の母親は鼻を鳴らして不機嫌そうに言います。


「野菜は抜かないようにって言ってるわよ。雑草を抜いたくらいで『殺す』なんて。こっちは雑草抜いてやったんだから、感謝されても良いくらいだよ」


 あまりの言いように唖然としましたが、反撃の言葉を考えます。


「あれは、雑草じゃなくてですね--」

「それとも、せっかく良い遊び場見つけたのに、また森に遊びに行って迷子にでもなったら、あんた責任とってくれるの?」


 肝試しの感覚で森に入る子供は多くいます。 

 子供たちが森に行くよりも、アレスの畑で安全な・・・スリルを味わってくれるほうが親としてはよっぽど安心なのでしょう。


 でも。


「それとこれとは別です! あの草は薬になるんです!」


 アレスの薬は良く効いて、一ヶ月経った今では、火傷の跡はすっかり消えています。

 いえ、薬がなくてもあんなことしていいはずがありません。


「どうせ、毒薬でしょ! 夕食の準備があるんだ。もういいだろ!」


 バタン! と大きな音をたてて、扉は閉まります。が、すぐに扉がほんの少しだけ開きます。


「あんたも、あの男の肩をもたないほうが良いわよ。若いのに変な噂が立っても嫌でしょ?」


 妙な忠告を残して、今度こそ扉は閉まりました。


 

 子供に目が行き届かないからなんだろうが……親よ、森で迷子になるより、何ぼかましって言ったって、人様に迷惑かけたらいかんだろう。

 俺は娘にちらりと視線を向けて心に誓うのだ。


 娘がこんな風に育たないようにしないとな。



 腹立たしく思いながらイリーナはいつもよりほんの少し遅れて、アレスの家に着きました。

 先ほどの家の裏での騒ぎがアレスに聞こえていないはずはないのに、アレスは変わらず静かにお茶を飲んでいます。


 イリーナはあんな嫌がらせをされて、それでも平気そうにしているアレスにもイライラしました。


「決めた。別の村に引っ越すよ」


 さっぱり、きっぱり言い切られて、イリーナの頭の中は真っ白になります。


「え?」

「このままじゃ生活が成り立たない。これから冬って時に、種が実る直前に全部引っこ抜かれたんじゃあ……」



「アレス、どっか行っちゃうの?」

「このアレスって人も霞を食っているわけじゃないからな……。それに」


 そこで、どう言うべきか迷う。 子供に言ってしまって良いのかとも考える。


「それに、周りの人、みんながみんな、ミクのことを嫌っていたら……? ミクはそんなところにいたい?」


 その言葉にミクはぎゅっと眉を寄せる。


「怖いし、いたくない」


 今にも泣きそうな声で、それでも娘は俺の顔を見上げて不安そうに、しかししっかりと言う。


「……でも、イリーナもお医者様も嫌っていないよ」

「うん。そうだな。じゃあ、どうすればいい?」


 俺でも、答えるのが難しい問いを娘に渡す。


「う~ん」


 娘は漢字を読むどころかひらがなを読むのだっておぼつかないのに眉を寄せて、真剣に画面を見つめる。


「そんなに見つめていると、目が悪くなってしまうよ。今日はもう寝よう」


 俺はパソコンの電源を落とすと、娘を抱き上げベッドに連れて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ