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5分のお茶会と半分の月  作者: くらげ
5分のお茶会と半分の付き
3/12

カーテンの先の表情

 翌日、娘はホラーな物が出てこないかじりじり待っていた。


「出てくるかもしれないな」とため息をついて、話の続きを読んでやった。



 その日の晩、イリーナはオレンジの髪を梳きながら、アレスのことを思い出していました。


 「お医者様の言うように、噂ほど怖い人ではなかったみたい」


 


 昨日、彼女はお医者様の所で目覚めました。

 見知らぬ男の人に助けてもらったことは覚えていましたが、雷の蛇の印象が強すぎて、助けてくれた男の人の特徴はきれいな金髪ぐらいしか、覚えていませんでした。


 お医者様から『噂の男に助けられた』と聞いて、イリーナは青ざめました。


 “噂の男”は最近村に住み着いた人で、越してきたその日に女性を殴ったとか、子供たちを『殺す』と怒鳴ったとか、その親に『あんたの子供はいのしし以下だ』と散々罵倒したとか、怖い噂ばかりが立つ恐ろしい人だったからです。


 噂の男は『アレス』といい、薬師だそうです。

 お医者様は「ちょうど、怪我に合う薬が切れたから」と言い、その男の人の家を教えてくれました。

 怖がっているイリーナにお医者様は「女の人が苦手なだけで、カーテン越しなら大丈夫だから」と微笑みました。


 その翌日、つまり今日、イリーナは殴られないか、雷の蛇をけしかけられないかおびえながら、それでもお礼のクッキーをバスケットに詰め、“噂の男”の家に向かいました。


 アレスの家の前の畑はぼうぼうで、野菜が雑草に埋もれていました。

 薄気味悪い森は家の側まで迫っています。扉のところにはお椀と棒の絵が描かれていました。


 イリーナは薬を買ったらお礼のクッキーを渡してすぐに帰るつもりでした。


 鈴の音がしゃんしゃんと鳴ったことにはびっくりしましたが、小さな部屋と椅子とカーテンで仕切られた小窓があるだけで、肝心のアレスの姿がありませんでした。


 恐る恐る声をかけてみるとカーテンの向こうからも、どこか緊張した探るような声が聞こえたのです。


 野良猫が近づいてくる人間をじっと伺う姿を思い浮かべた瞬間、

「助けてくださったお礼に。一緒にお茶しません?」

 ぽろりと口が滑ってしまったのです。


 かたりと音が聞こえたので、カーテン越しのアレスは椅子から腰を浮かしたのかもしれません。

 押し問答の末、アレスはクッキーを食べてくれたのですが、「焦げてはいない」ととても言いにくそうに言ったので、不思議に思って一枚かじってみたら……砂糖が入っていませんでした。


 自分の失敗に気づいた時には遅く、カーテンの向こうからは「土の味のシチューよりはおいしい」と言う言葉の後はぱりぽりといつまでもクッキーの音が聞こえていました。


 



 下手な絵と雑草がぼうぼうの畑と大量の鈴とカーテン。

 怖い人ではなかったけれど、やはり変人であることは変わりません。


 イリーナは髪を梳かしながら考えます。

 噂ではアレスはとてもきれいな顔立ちだそうです。

 「土の味のシチューよりかまし」と気まずそうに言ったとき、アレスはカーテンの向こうで……


「どんな表情かおをしていたのかしら」


 そう呟くと櫛を置きました。


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