見捨てる男
「ミク。これ、お前の好きな作者のじゃないか?」
娘に買ってやる本はないかとパソコンで絵本の検索していたらたまたま引っかかったのだ。
娘は「なーに?」と問いかけて、俺の側まで来る。
「ほら、『スケルトンとお姫様』の作者がインターネットに他のお話を載せてるんだよ。『5分のお茶会と半分の月』だってさ」
「パパ、『お姫様とスケルトン』だよ。このお話もスケルトンが出てるの?」
「スケルトンは出て無いんじゃないかな」
ホラー嫌いの俺が『今回はホラー要素なさそうだ』と心の中で喜んでいる横で、娘は「えー」ととても残念そうな声を上げる。
「読むのか。読まないのか?」
「読んで!」
五歳児にパソの細かい文字が読ませるわけにはいかない。
俺は目を眇めてパソコンの細かい文字を音読し始めた。
☆
あるところにアレスという不思議な薬を作る男がいました。
このアレスという男は、女の人を見るだけで気分が悪くなるほど女性嫌いで、一度村の女性に大怪我をさせてしまってから、村一番の嫌われ者でした。
ある日、森の近くでオレンジ色の髪の女の人が男三人に囲まれていました。
女の人はアレスを見て、助けを求めますが、アレスは女の人の横を通り過ぎて行きます。
☆
おい! いくら女嫌いでもひどいんじゃないのか!
というか五歳児に読み聞かせてもいい内容なんだろうな!?
「なんで助けないの?」
「うーん。現実的に考えて男三人に囲まれて一人じゃ助けられないからじゃないかな。きっとおまわりさんを呼びに行ったんだよ」
そう信じたいが……ちゃんと内容を確認してから、ミクに読んでやったほうが良かったか?
「えー、どれだけ離れても女の人の甲高い悲鳴が聞こえます。アレスは思い直して、男達に囲まれた女の人の所に戻りました。アレスが呪文を唱えると、三匹の雷の蛇が現れ、女の人を取り囲んでいた男達をやっつけました」
助けられるなら、さっさと助けろよ!
「女の人は、助けてくれたアレスに飛びつきますが、アレスは女の人に触られるなんて耐えられません。アレスがとっさに唱えた呪文によって三匹の雷の蛇は、女の人にいっせいに襲い掛かってしまいます」
おい! ヒロイン(と思しき人)を攻撃してどうする!
ちょっと物語の雲行きが怪しくなってきたので、お気に入り登録だけして、ウインドウを閉じる。
「ほら、ミク。今日はここまでだ」
「えー、まだゾンビさん出てきてないよ~」
「出てこないよ。いきなり出てきたら夜中にお手洗いに行けなくなるだろう? (主に俺が)」
いや、タイトルに『ゾンビ』って書いてなかったけれどあの作者なら、唐突に出てくることも十分ありうる。
俺は思いっきり不服そうな顔の娘を抱っこして寝室へ向かった。