第2話 荒海や佐渡によこたふ天の河
越後は。
白。
白。
白。
真っ白な大地
空も、地も、道もない。
雪は、沈黙だ。
農家の蔵。
男
「動かせん。春まで待つしかない」
積まれた米俵。
余っている。
だが、届かない。
それは物流の敗北だ。
僕は俵を解く。
指先に湿り気。
僕
「雪が問題じゃない。湿気だ」
・俵の二重構造化
・内張りに油紙
・高床式の乾燥蔵
・街道沿いに中継保管所
・雪解け一斉出荷計画
冬は“止まる季節”じゃない。
仕込む季節だ。
吹雪の中、僕は地図を広げる。
まだ粗い。
山も川も曖昧だ。
僕
「正確な地図があれば、雪は怖くない」
後ろに、旅装束の男。
松尾芭蕉。
何も言わない。
だが、見ている。
僕
「あなたは歩く。歩く人間は、地図より正確だ」
芭蕉
「……雪は、道を消す」
僕
「なら、僕が描き直す」
数か月後。
滴る音。
雪が緩む。
川が鳴る。
僕
「今だ」
蔵の戸が開く。
俵が運び出される。
馬の蹄が泥を蹴る。
越後の米が動く。
京へ。
堺へ。
瀬戸内へ。
白い飯を見て、人が息を呑む。
「越後の米だ」
地名が、価値になる瞬間。
僕は空を見る。
白だった世界に、青が差す。
僕
「雪は、止めていたんじゃない。溜めていた」
隣で、芭蕉が筆をとる。
一行だけ。
荒海や
佐渡によこたふ
天の河
僕は黙る。
越後の先には海がある。
海の向こうにも、道がある。
物流は、地を越える。
僕は確信する。
これは米の話じゃない。
これは
全国物流網の、第一歩だ。




