第8話 神は醤油を否定しない。
長机が、教会の中庭に並べられた。
皿は素朴。
料理も質素。
だがそこに置かれた小瓶だけが、異様な存在感を放っている。
黒い液体。
信徒たちが、半信半疑で集まってくる。
子どもが先に手を伸ばした。
子ども
「なにこれ? くろい」
卵に、少し垂らす。
口に入れる。
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
子ども
「うまい!!」
爆発。
笑い声。
叫び声。
子どもたちは競うように飯をかき込み、
「もう一回!」と皿を差し出す。
年配の信徒が、恐る恐る口に運ぶ。
噛む。
飲み込む。
そして
何も言わず、
目元を押さえた。
年配の信徒
「……若い頃を、思い出した」
その声は、震えていた。
全登は、少し離れたところから
その光景を、黙って見ていた。
騒がしい。
だが、荒れてはいない。
満ちている。
全登は、十字を切り、
ゆっくりと口を開いた。
全登
「これは罪ではない」
一瞬、空気が張りつめる。
全登
「“喜び”じゃ」
その瞬間――
聖歌が始まった。
一人が歌い、
二人が重ね、
やがて
大合唱。
子どもも、老人も、
声が合わなくても関係ない。
喜びの歌。
その時、
僕は醤油の瓶に落ちる光を見た。
雫が、きらりと揺れる。
まるで――
神が、泣いたみたいだった。
数日後。
教会の一角に、札が下がる。
神の奇跡「醤油」
信徒たちが運び、
記録し、
配り、売る。
全登
「神は否定せんよ。 人を幸せにするものを」
噂は街へ。
街から街へ。
爆発的に売れた。
これは、ただの調味料じゃない。
これは
味の大改革
信仰を補強する食
教会発・経済革命
戦は人を分ける。
だが、味は人を集める。
そのことを、
神もきっと、否定しなかった。




