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【歴史ランキング1位達成】 累計331万1千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
僕の戦国時代外伝 明石全登と僕の味つけ改革列伝

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第7話 神の一滴、落ちる

(醤油作り方、1年クッキング)

大豆を蒸します、小麦粉を炒って砕きます。➡︎ 種麹と混ぜます

➡︎麹室というところで塩水と混ぜ、もろみを作ります➡︎

このもろみを木製大桶に入れ1年間発酵させます(麹菌、乳酸菌など)

➡︎このもろみを布に包んで絞ります。➡︎最後に加熱殺菌します。


_______________________



教会の奥。

巨大な木桶の前に、人が集まっていた。


歌はない。

祈りの声もない。


静寂。


もろみが、布袋に移される。

ゆっくりと、慎重に。


全登が、両手を合わせる。


全登

「……主よ」


誰も急かさない。

誰も喋らない。


そして


ぽと。


一滴、落ちた。


黒く、艶のある液体。


醤油。


二滴、三滴。

静かな音が、石床に響く。


教会が、完全に静まり返る。


全登はその滴を見つめ、ぽつりと言った。


全登

「……聖水じゃな」


誰も笑わなかった。

誰も否定しなかった。


それほどまでに、

その一滴は重かった。


小さな椀が用意される。


白米。

湯気が、立つ。


卵が割られ、

黄身が中央に落ちる。


全登が、僕を見る。


全登

「いけ」


震える手で、

僕は醤油を垂らす。


とろり。


四十年ぶり。


香りが、鼻を打つ。


「……ああ」


箸を入れ、

混ぜて、口へ運ぶ。


味が、来た。


記憶が、来た。

時間が、戻ってきた。


胸が詰まり、

視界が滲む。


「……っ」


涙が、止まらない。


誰も止めない。

誰も見ないふりもしない。


(ミッチーにも…… 食べさせたかったなぁ)


声にならない嗚咽が、

教会に落ちる。


全登は何も言わず、

ただ、静かに聖歌を歌い始めた。


♪ 主よ この一滴を ♪

♪ あなたは 笑ってご覧になるか ♪


♪ 血ではなく 剣でもなく ♪

♪ 人の手から 生まれしものを ♪


信徒たちが、自然と声を重ねていく。


♪ 豆は 土に眠り ♪

♪ 麦は 風に揺れ ♪

♪ 時は 争わず 待ち続け ♪


♪ ついに この香りを ♪

♪ 世に 解き放てり ♪


子どもたちが、

意味は分からぬまま、口ずさむ。


年老いた女が、

胸に手を当てて、目を閉じる。


♪ 主よ これは罪か ♪

♪ いいえ これは喜び ♪


♪ 生きよと 言われた ♪

♪ その答えが ここにある ♪


全登は、

十字架を見上げ、

最後の一節を、はっきりと歌った。


♪ 今日 この教会に ♪

♪ 涙と 笑顔を与えたものよ ♪


♪ 我らは 感謝する ♪

♪ この一滴を―― ♪


♪ 味と 呼ばせ給え ♪


歌が終わる。



低く、穏やかに。

慰めるための歌。


その日、

教会で生まれたのは、醤油だけじゃない。


失われた味

取り戻された時間

祈りが、生活になる瞬間


神は空から降りてこなかった。

だが

醤油一滴は、落ちた。

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