表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【歴史ランキング1位達成】 累計331万1千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
僕の戦国時代外伝 明石全登と僕の味つけ改革列伝

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

277/289

第5話 麹は生きている。

教会の裏庭。

石造りの倉庫に、蒸した米の湯気が白く立ちのぼっていた。


鼻を突く、甘いような、酸っぱいような匂い。

僕は顔をしかめた。



そして今

腐ってる気しかしない。


「……ダメだろ、これ。

 どう見ても終わってる。 昨日より臭いが強い」


桶を持ち上げ、捨て場へ向かおうとした、その瞬間。


全登が、静かに腕を伸ばして止めた。


全登

「待て」


低い声。

しかし、迷いはない。


全登

「それは“死んでる”顔じゃない」


「顔……?」


全登は桶の中を覗き込み、指で米をすくい上げる。

糸を引く。

温かい。


全登

「生きておる。

 息をしとる。

 働き盛りじゃ」


僕はそこで、初めて理解する。


麹は、作るものじゃない。育てるものだ。


夜。

教会の礼拝堂。


信徒たちは事情を知らない。

だが全登は、壇上に立ち、ゆっくりと語り始めた。


全登

「神は、人に“時間”を与えた。

 そして“信じて待つ力”を」


「麹菌とは、見えぬ働き手。

 目に見えぬが、世界を変える」


「人が焦れば、菌は死ぬ。

 人が疑えば、菌は黙る」


僕はハッとする。


発酵

それは時間と信頼の象徴だった。


剣も、祈りも、奇跡も、

一晩では完成しない。


全登は両手を広げる。


全登

「菌は金じゃ」


信徒たちがざわめく。


全登

「見えぬが、確かに価値がある。

 増えれば富を生む。 粗末にすれば、何も残らん」


その言葉に、僕は深く頷いた。


この世界で、

醤油を作るということは文化を育てるということなのだ。


そして、全登はゆっくりと歌い始める。


低く、穏やかな聖歌。


「時を与えし神よ 見えぬ働きに感謝を

 腐敗に見えしものの中に 命を宿らせ給え」


信徒たちも、つられて歌う。

素朴で、不器用な合唱。


桶の中で、麹は今日も静かに増えている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ