第1話 お主も悪よの〜 温泉リゾート密談
「お主も悪よの〜」
湯気の向こうから、急に聞こえた。
「……は?」
僕が顔を上げると、湯船の縁にちょこんと座ったチビ伊達政宗が、
なぜか片足を上げ、扇子もないのに見栄を切っている。
「よっ!奥州一の伊達男!
独眼竜・伊達政宗とは〜〜
この俺様のことよぉ〜〜!!」
完全に歌舞伎口調だ。
「いや急にどうしたんですか」
「風呂はなぁ!見栄を切る場所だと決まっておる!!」
意味がわからないが、目はやたらキラキラしている。
変な奴だが、悪い奴ではない。
一体なんの話かというと僕はこのチビ伊達政宗を招いて、
温泉リゾートの話をしていた。
「奥州全体をな、温泉でつなぐんだよ」
「ほう……?」
政宗は湯船に浸かり直し、今度は普通の口調に戻る。
「山があり、湯があり、雪があり、海もある。
……観光地になる素材は、そろってる」
「ふむ」
「だから全部まとめて、東北一大温泉リゾートにする」
一瞬、政宗は黙った。
そして
「……面白い」(リゾートって何?)
即答だった。
「本拠地が仙台なのも、立地的に最高ですし」
「うむ。道を通せば人は来る。港を使えば、船も来る」
「高速道路や新幹線は……まぁ、そのうち通るでしょう」
「ははははは!!未来を雑に信じる男だな、貴様!」
だが、笑いながらも、
政宗は完全に食いついていた。
「して、その計画……名はあるのか?」
「仮ですが」
僕は湯気の中で、指を立てた。
「仮称『東北行くなら伊達家、電話は4126』」
「……4126?」
「“よいふろ”です」
一瞬の沈黙。
次の瞬間——
「がははははははは!!
くだらん!!だが、覚えやすい!!」
政宗は湯をばしゃっと叩き、
突然また立ち上がる。
「よいか皆の衆〜〜!!
(誰もいない)
湯とは癒やし!癒やしとは支配!!
支配とは——」
僕を見る。
「——金になるということよぉ〜〜!!」
再び歌舞伎モードだ。
「政宗、声でかいです」
「構わん!これは密談だが、
大声で言うのが密談というものよ!」
絶対違う。
「で、だ」
政宗は急に真顔になる。
「この伊達政宗、何をすればよい?」
その目は、戦ではなく、建設を見る目だった。
「全部です」
僕は即答した。
「道も、街も、湯も、人も。奥州の王にしかできない役目です」
一拍置いて。
「……お主も、相当の悪よの」
「お主こそ」
二人で笑う。
「がははははは!!」
「あははははは!!」
湯気の中、
戦国でも現代でもない、
妙な同盟が結ばれた。
こうして剣でも槍でもない、
温泉と金と未来の戦が、静かに始まった。




