第14話 7回〜8回「すべての力が、一点に集まる」
◇7回表(影の集団・攻撃)
ピッチャーマウンド。
宮本武蔵は、まだ立っている。
肩は上がらない。指先は痺れている。
それでもボールを握る。
柳生宗矩がベンチから静かに告げる。
「投げ方を変えろ。力を捨てろ」
武蔵、うなずく。
「……剣と同じか」
初球。
剛速球ではない。
山なり。しかし、急に落ちる。
忍者の目が泳ぐ。
——空振り。
二球目。
間を外す“遅すぎる直球”。
——ファウル。
三球目。
剣を振るように、腕を振る。
ボールは——
来たと思った瞬間、まだ来ない。
——見逃し三振。
観客、どよめく。
次の打者。
影分身で視界を乱す。
だが
小次郎、微動だにしない。
「……全部、偽物だ」
芯を外した打球。
高く上がる。
又兵衛、異様な距離をカバー。
「まだ届く!」
捕球。
アウト。
二死。
最後の忍者。
小太郎。
走る気配すら見せない。
「……走らぬ走塁、か」
武蔵、最後の力で投げる。
剛速球。
★カキィーン
芯に当たる。
打球は三遊間へ。
だが
一刀斎。
寝たまま、グラブを伸ばす。
「……そこだ」
捕る。
投げる。
アウト。
三者凡退。
武蔵、マウンドで膝をつく。
弥助、観客席で叫ぶ。
「マダ立ッテル!!武蔵ハヨ!!」
◆7回裏(剣豪ズ・攻撃)
勝負の7回から、だが。
物語の始まりは、観客席の怒号だった。
観客席で弥助が立ち上がる。
誰よりも大きな身体で、誰よりも大きな声で。
「うてぇえええええコノヤロウ!!!
武蔵ぃぃぃぃ!!!」
球場が揺れる。
武蔵は振り返らない。
だが、その声は、確かに武蔵の背中を押していた。
空気が変わる。
忍者側、初めて焦る。
先頭、伊東一刀斎。
構える。
——そして、突然。
バント。
完璧。
球は三塁線へ。
忍者、処理が遅れる。
セーフ。
次、又兵衛。
打たない。
初球からスタート。
盗塁。
送球、間に合わない。
一・三塁。
小次郎、打席。
観客が息を呑む。
振らない。
忍者、力む。
暴投。
三塁走者、生還。
剣豪ズ1点追加。
スコア
剣豪ズ 影の集団
2 ― 4
なおも一死二塁。
武蔵、ネクストで立つが
宗矩が止める。
「今は、まだだ」
後続は凡退。
だが、流れは完全に剣豪ズへ。
◇8回表(影の集団・攻撃)
武蔵、再びマウンド。誰も声をかけない。
全員が、背中を見ている。
忍者側、合体忍術を解禁。
影が揺れ、火が走る。
初球。
剛速球。
渾身。
——ファウル。
次。
変化球。
——空振り。
三球目。
忍術で打ち返される。
強烈なライナー。
だが——
小次郎、動く。
“間”で追いつき、弾く。
二塁、又兵衛。
長すぎる腕で捕球。
アウト。
次の打者。
忍術バント。
武蔵、自ら処理。
一塁へ送球。
アウト。
三人目。
フルスイング。
——空振り三振。
武蔵、吠える。
「まだだ!!」
◆8回裏(剣豪ズ・攻撃)
観客、総立ち。
弥助、声を枯らして叫ぶ。
「ココダ!!ココカラダ!!」
先頭、又兵衛。
ヒット。
一塁。
すぐ走る。
盗塁。
次、一刀斎。
打たない。
送りバント。
一死三塁。
小次郎。
フルカウント。
芸術的空振り。
だが。
捕手、後逸。
三塁走者、生還。
さらに剣豪ズ1点追加。
スコア
剣豪ズ 影の集団
3 ― 4
同点まで、あと1。
だが
柳生宗矩が言う。
「油断は大敵じゃ。」
剣豪ズ、ここで攻撃終了。
しかし
球場は、完全に剣豪ズの空気。
武蔵、ベンチで静かに立ち上がる。
「最期の……9回だ。」
誰も、異を唱えなかった。
続く




