第7話 大勝負しました。
僕は、本多忠勝と徳川家長の一騎打ちを、
泥と血に濡れた関ヶ原の低地から遠目に見ていた。
「おおお……おおおおぉぉ……!」
歓声とも、悲鳴ともつかぬうねりが、
東軍の陣から湧き上がった。
本多鬼イ様が
膝から、前のめりに崩れ落ちた。
……勝った、のか。
「……強いな……」
思わず、呟いていた。
あれは本当に、僕の息子なのか。
(カッコいいし強いし、育てられた環境でこうも変わるのか?)
本多鬼イ様は倒れきらず、家臣二人に両肩を抱えられ、
引きずるようにして後方へ運ばれていく。
生きているのか。
死んでいるのか。
どちらにせよ、あれほどの男を“倒した”事実だけが、
戦場に重く残った。
(ついやんちゃで、やっちまったな……)
(現代なら刑務所だ)
(……いや、ここは戦国だ)
戦が終われば、お見舞いに行こう。
僕が生きていれば、だが。
最悪、僕の墓に、本多鬼イ様が線香を上げに来るかもしれん。
そんなことを考えている場合じゃない。
「さぁ中田軍!!
最後の大勝負だぁ!!」
「 「 「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!」 」 」
最後の関ヶ原が、完全に牙を剥いた。
徳川家長の血走りの軍団が、
霧と硝煙を引き裂いて迫ってくる。
前列は、家長の西洋鋼鉄の重装兵。
人ではない。歩く城壁だ。
その両脇に、巨大な大砲銃部隊。
さらに外側に、火縄銃隊。
中核には、長槍を密集させた兵列。
ゆっくり。
だが確実に。
人間重戦車が、地面ごと戦場を押し潰してくる。
左右の砲撃が火を吹き、
正面の敵兵が消える。
叫ぶ間もない。
潰され、
跳ね飛ばされ、
踏み砕かれ、
泥と血の区別もなくなっていく。
進軍した跡には、血の筋が、
引きずられたように地面に残った。
(……要塞だ)
(動く要塞が、こっちへ来ている)
「装甲車部隊!盾の部隊!前へ!!」
「後方から弥助ノック!!武蔵ピッチング!!」
「石がないでござる!!」
「何でもいい!!
落ちてる物を投げろ!!」
折れた刀。
曲がった槍。
血にまみれた兜。
……名前を呼ばれなくなった“何か”。
空を飛ぶそれらは、
もう武器ですらなかった。
ただの、絶望の投擲だった。
だが家長の軍は止まらない。
砲撃。
銃撃。
圧殺。
前列が死ねば、
次が踏み越えてくる。
個人の勇など、
すでに存在しない。
その時だった。
「中田殿、助太刀に参った!」
立花宗茂。
三千。
生きた刃が、右から突き刺さる。
「家長軍を、鉄砲早込で横から叩いてくれ!」
「かしこまった!」
さらに
「明石隊、援軍に参った!」
キリシタン四千。
左から、祈りと銃声が降り注ぐ。
(三方向……!)
(分断できる……!!)
正面からぶつかれば、
踏み殺されるだけ。
ならば、
囲んで、削って、
内側を食い破るしかない。
「中田軍!!
家長の本隊を狙う!!
準備しろ!!」
僕は、人間要塞への突入を決断した。
◇◇◇
徳川家康陣内。
「申し上げます!
毛利隊、動き出しました!
小早川隊壊滅!
東堂隊、京極隊、全軍撤退!!」
「……」
「家康公、後方へ援軍を――」
「わしは、逃げる」
沈黙。
「準備を致せ」
「……どこへ逃げられるのです!!
後方は戦の最中!
鈴鹿山方面も、すでに制圧されています!!」
影武者の家康の顔が、歪んだ。
(いえなが……!)
(話が違うではないか……!!)
天下どころか、
逃げ場すらない。
袋の鼠。
関ヶ原は、もはや戦ではなかった。
生き残る資格を、奪い合う処刑場だった。




