第2話 身代わりになりました。
笹尾山に太鼓が鳴った。
それは合戦の合図ではなかった。
処刑の音だった。
福島軍
「……太鼓が鳴っておる、ではないか」
福島正則は、馬上で顔を歪めた。
「家長め……
わしの兵諸共、砲弾の餌食にする気か!」
次の瞬間―
ひゅ〜……
ひゅ〜……
ひゅ〜……
空が鳴った。
Vどかーん!!
Vどかーん!!
Vどかーん!!
地面が跳ねた。
人が、馬が、鎧ごと宙を舞った。
「うわあああああ!!」
肉が裂け、
鉄が歪み、
命が霧になる。
「伏せろ!!
物陰に隠れよ!!」
だが
隠れる場所など、どこにもなかった。
Vどかーん!!
Vどかーん!!
「おのれ……家長!!」
福島正則は歯を噛み締め、吠えた。
「このまま犬死にしてたまるか!!
これより西軍に寝返る!!」
砲弾が降る中、
怒りだけが彼を生かしていた。
笹尾山・西軍本陣
同じ空の下。
Vどかーん!!
Vどかーん!!
笹尾山は、崩れ始めていた。
「殿!!この本陣から脱出を!!」
爆音に言葉が引き裂かれる。
「なに!?なんだって!?」
Vどかーん!!
「は、や、く……
おにげを……!!」
「どこへ!?
どこへ逃げるの!?」
次の弾を込めるため、
一瞬、砲撃が止んだ。
その一瞬で、
決断は下された。
「弥助!!
武蔵!!
殿を頼んだ!!」
次の瞬間、僕の身体は宙に浮いた。
弥助の肩。
武蔵の手。
「くノ一隊!!護衛を頼む!!」
「ミッチー!!
お前も逃げるんだろ!?」
振り返った、その時。
石田三成は、笑っていた
石田三成は、
血と土にまみれながら、
にっこりと笑っていた。
首を、静かに横に振る。
「……早く行け」
「宇喜多軍へ合流せよ。
走れ。振り返るな」
「……ミッチー……」
「殿」
その声は、
不思議なほど穏やかだった。
「殿は、生きねばならぬお方だ」
砲撃が再び始まる。
Vどかーん!!
Vどかーん!!
僕は叫んだ。
「ミッチー!!
なんでだ!!
なんで一緒に来ないんだ!!」
返事は、なかった。
見送る背中
山を下る。
弥助に担がれ、
武蔵に守られ、
くノ一に囲まれながら
振り返る。
石田三成の姿は、
砲煙の中、
どんどん小さくなっていった。
(一緒に勝つんじゃなかったのかよ……)
石田三成は、
遠ざかる背を見つめていた。
中田玄白。
弥助。
宮本武蔵。
唇を噛み、
涙を堪えた。
(……殿と、皆と……
祝杯をあげたかったでござるな)
彼は、振り返る。
「これより!!」
砲弾が降る中で、
声を張り上げた。
「中田様より預かりし
中田隊全指揮権限
この石田三成が引き受ける!!」
「まだ戦える者を集めよ!!」
Vどかーん!!
Vどかーん!!
死が迫る中、
彼の背は、
最後まで崩れなかった。
(殿……新しき日本を、創ってくだされ)
(……私には、視えております)
(理ではなく、力ではなく
“人が信じ合える国”が)
その後
数時間後。
砲弾の雨が止み、
血走りの軍と徳川三万が押し寄せた。
乱戦。
地獄。
名もなき死。
戦場の片隅に、
二つの屍があった。
一人は、福島正則。
一人は、石田三成。
どちらが、
誰に、
どう殺されたのか
誰も知らない。
だが、
確かなことが一つだけある。
石田三成は、
最後まで
僕たちを逃がし、
理想を捨てなかった。
それだけで、彼は敗者ではなかった。
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石田三成 処刑前の逸話
【柿は胆の毒になるので入らない】
石田三成が処刑される前に湯を求めたところ
兵は湯はないがここに干し柿があるこれで我慢しろ
民家の干してある柿をとり渡しました。
すると三成は
「柿は胆の毒ゆえ食わぬ」と云った。
「もうすぐに首を切られる者が、今から毒断ちをして何になる」
と兵は笑ったが、
「大義を思う者はたとえ首をはねられる最後の瞬間まで
命を大切にして、なんとか本意を達成しようとするものだ。」
と云い、泰然としていたという。
【黒田長政 羽織がけ】
石田三成が東軍に捕まり
徳川家康の陣の前で待たされた時、通りかかった
黒田長政が馬から降りて、三成の汚れた服装の上に、
着用していた羽織を脱ぎ着せた。
【死ぬ前に何か云い残す事はないか】
処刑上で石田三成は僧侶が仏を唱え
えようとすると、拒否します。
そして僧侶に
「言い残すことは」と言われると、
「あの世で亡き太閤殿下にお目にかかるが楽しみじゃ。」
と答えたという。




