第10話 いきなり来ました。
関ヶ原一帯に、
低く、重たい地鳴りが広がり始めた。
東軍本陣より
騎馬砲兵二百騎。
血走りの軍、一千六百。
徳川勢二万五千。
井伊直政隊、三千六百。
福島正則隊、五千。
総勢、およそ三万五千。
旗が翻り、
鎧が鳴り、
馬の嘶きが霧を切り裂く。
東軍本陣は、ついに動いた。
血走りの軍の伝令が、
汗と血に濡れた馬を駆り、
家長の騎馬戦車へと疾走する。
隣には、
徳川家康の影武者を乗せた騎馬戦車。
「家長様ッ!!
小早川秀秋殿、東軍へ寝返り!
現在、大谷軍を攻撃中との由!」
家長は、
微かに口角を上げた。
「……そうか」
「まずは、予定通りだな」
静かな声だった。
「敵軍の注意を引きつけちょうど良い目くらまし程度にはなろう。」
(小早川秀秋殿には、
人柱として、存分に働いてもらわねばならぬ)
「援軍を送りましょうか?」
「京極隊、東堂隊に伝えよ。
救援に向かわせろ」
家長は、
影武者の騎馬戦車を一瞥した。
「……家康公。
震えておられるのですかな?」
影武者の声が、掠れる。
「……わしの身柄は、
本当に大丈夫なのであろうな?」
「今日で、この戦を終わらせます」
家長は断言した。
「弱気は、兵に伝染する。
あなたは
東軍総大将でございますぞ」
「……」
(あれを、やる時が来たか)
「福島正則殿はおられるか」
「これはこれは、家康公殿。ご機嫌麗しゅう」
「貴殿の働き、
しかとこの目に焼き付けておく。
存分に暴れてもらいたい」
福島は豪快に笑った。
「神君よりのお言葉、
恐悦至極!」
「福島正則、
この剛腕と槍裁き
馬上より、たっぷりご覧くだされ!」
(扱いやすい男よ。影武者と知らず、
せいぜい命を燃やせ)
こうして
東軍三万五千は、
笹尾山・西軍本陣へ向け、
一斉に進軍を開始した。
◇◇◇
西軍本陣・笹尾山
「申し上げます!」
「小早川秀秋殿、寝返り!
立花隊・大谷隊が迎撃中!
東堂隊、京極隊が援軍として接近!」
「……やっぱり裏切るのね」
僕は、ため息まじりに呟いた。
「長宗我部隊を救援に出して」
次の報が、
ほとんど間を置かず飛び込む。
「東軍本陣より、
徳川勢およそ三万!
笹尾山へ向け、進軍開始!」
「……え?」
「……ちょっと待って?」
「本陣って……
まさか――
徳川家康、来てる?」
「殿、昨日は
『家康攻めてこないかなぁ』
と申されておりましたが」
「言った!?
言ったね!?
言ってるよ僕それ!!」
「いやいやいや!
願望と現実は違うでしょ!」
「急すぎるって!
こっちにも準備ってもんがあるでしょ!!」
(浮気現場に鬼嫁が
“今から行くから”
って言ってる状態だよ!
例えが長い!でもそれくらい切羽詰まってる!)
「願ったり叶ったりでは?」
「全然叶ってない!!」
「弥助!武蔵!」
「今日はいきなり
決勝・最終決戦だ!」
「装甲車!盾部隊、最前線!」
「クロスボウガン!
くノ一隊は後方撹乱!」
「人力やり襖、左右から挟撃!」
「ハングライダー部隊!
上空から爆弾投下ね!」
「殿……
一つずつ命じていただかねば、
皆、理解できませぬ」
「……ごめん」
(テンパってます)
僕はミッチーに視線を投げた。
「各隊への伝達、頼む」
「承知」
◇◇◇
その頃、
南宮山・毛利軍陣内
「申し上げます」
「東軍本陣より、
徳川勢三万が出陣。笹尾山へ進軍中」
「……」
「殿、今こそ東軍本陣を背後より衝く好機かと」
「小早川秀秋は?」
「東軍へ寝返り、現在大谷軍と交戦中」
「……全軍、待機」
「は?」
「今しばらく、戦況を見る」
(この一瞬の判断が、毛利百年の命運を決める)
毛利の軍旗は、風に揺れながら
動かなかった。
笹尾山・山頂
僕は、その動かぬ毛利の旗を見下ろした。
刻一刻と、
戦況は
臨界点へ向かっている。
関ヶ原は、
今まさに
すべてが噛み合う瞬間を待っていた。
【関ケ原の戦い 中 完】




