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【歴史ランキング1位達成】 累計331万7千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
第十二部 関ケ原の戦い 中

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第5話 謀略しました。

徳川方本陣・桃配山


夜半。

桃配山の本陣には、昼の喧騒が嘘のような静けさがあった。


篝火が揺れ、

陣幕の内には徳川家康と、

ごく限られた重臣のみが控えている。


「家長を呼べ」


低く、疲れた声だった。


やがて、

徳川家長が静かに入室する。


「御前に」


深く、完璧な礼。

その動作に一切の乱れはない。


すでに家康は、

関ヶ原一日目の戦況報告を受けていた。


「東軍の戦況は、どうじゃ」


家康の問いに、家臣が答える。


「福島隊、藤堂隊、京極隊、いずれも前線より後退。

 本多忠勝殿は敵本陣へ肉薄しましたが、反撃を受け撤退。

 我が軍、主導権を握れておりませぬ」


家康は顎に手を当て、沈黙した。


「……芳しくないな。

 持久戦とする。

 小早川秀秋殿に使者を送り、

 明夜、大谷吉継隊の背後へ回り込むよう伝えよ」


「はっ」


家臣は下がった。


陣幕の中には、

家康と家長、そして数名の側近だけが残る。


「家長」

「は」


「明日、血走りの軍をもって敵本陣を攻めよ。

 撹乱が目的じゃ」


その時だった。


「……ふっ」


家長が、

わずかに笑った。


「家長!」

側近が声を荒げる。

「神君家康公の御前で無礼であるぞ!」


家康は手を上げ、制した。


「よい。

 家長、何が可笑しい」


家長は一歩進み、

落ち着いた声で言った。


「恐れながら申し上げます。

 今の策は、すでに中田殿の想定内でございます」


陣幕の空気が、凍りついた。


「小早川秀秋殿の裏切り。

 あるいは、動かぬこと。

 いずれも中田殿は折り込んでおります」


「……まだ申すか」


「さらに申し上げます。

 明日、私が血走りの軍を率いて突撃する策。

 これは勝つための策ではなく、時間を稼ぐ策」


側近が叫ぶ。


「家長!狂ったか!

 神君を愚弄するか!」


家長は視線を外さない。


「今や東軍は、

 山に囲まれた関ヶ原に閉じ込められております。

 例えるなら――」


一拍置く。


「猫に追い詰められた、袋小路のネズミ」


「ぬかせ!」


「しかし」


家長は淡々と続けた。


「ネズミでも、数を揃え、

 一斉に猫の顔面へ噛みつけば、

 猫は倒れます」


「家康公を最前線へ出せと申すか!」


重臣が激昂する。

「それこそ愚策!」


「違います」

家長は首を横に振った。


「すでに最前線に出ていただいているのです」


「……何?」


「まだ申すか!ここで斬りすてる権限をお与えください。」


「家長、命を捨てに来たか!」


「ご乱心じゃ!家長が狂い謀反を起こす気じゃ!引っ立てい!」


「・・・・・・」


「何をしておる!何が可笑しいのじゃ家長!狂人め!」


その瞬間。


陣幕の外から、

短く、鈍い音がした。


ドスッ。


次いで、

人が倒れる音。


家康が立ち上がる。


「何事じゃ!」


返事はない。


「家長……?」


家長は、静かに言った。


「この本陣は、すでに制圧しております」


「馬鹿な……!」


家康が振り向いた瞬間、

側近の一人が喉を押さえ、崩れ落ちた。


血走りの軍。

陣幕の内側に、

すでに潜り込んでいた兵が姿を現す。


「家長!」

家康は怒鳴った。

「恩を仇で返すか!」


「恩は忘れておりません」

家長は答える。

「だからこそ、ここで終わらせるのです」


「わしを殺せば、東軍は瓦解する!」


「いいえ」

家長は首を振った。

「明日の戦は、影武者の家康公に指揮を執っていただきます」


「そんな者、すぐ見抜かれる!」


「見抜かれません」

家長は断言した。

「混乱の中では、人は“見たいもの”しか見ません」


家康は、歯を食いしばった。


「貴様……中田の血か……呪われた血が流れておるな……!」


「それでも」


家長は一礼した。


「徳川のためです」


短い沈黙。


「……斬れ」


家長の声は、静かだった。

刃が振り下ろされる。


こうして

徳川家康は、戦場ではなく、本陣で死んだ。


翌日、

関ヶ原には、

“家康公”の旗が、変わらず翻っていた。


旗には、白地に三つ葉葵、そして黒々と書かれた

厭離穢土おんりえど 欣求浄土ごんぐじょうどの文字。


穢れを厭い、浄土を求めると謳いながら、

その旗は、昨日よりも多くの血を吸う。


そして

誰も、その中身が入れ替わっているとは、

まだ知らない



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