第4話 みんな頑張りました。
関ヶ原、午前。
霧は薄れ、代わりに地面から湧き上がる湿気が、血の匂いを含んで肺に絡みついた。
「……効いてるな」
前線を見下ろし、僕は呟いた。
遠くの敵には、弥助のノック。
近くの敵には、武蔵の豪速球。
石が空を裂き、
兜を砕き、
鎧を歪め、
人の骨を“音”で折る。
「ぎゃあああああ!」
「馬がっ、馬が止まらねぇ!」
「石だ!避けろぉぉ!」
騎馬は勢いを失い、
隊列は乱れ、
突撃は途中で止まった。
「殿! 敵、攻めあぐねております!」
「よし……今だ」
僕は背後を振り返る。
「毛利軍と小早川軍へ
【今こそ徳川軍へ総攻撃せよ】
のろしを上げろ!」
「はっ!」
南宮山へ向け、
黒煙が立ち上る。
もし――
もし、今ここで十五万の刃が同時に動けば、
徳川軍は逃げ場を失い、
この盆地は巨大な屠殺場になる。
「殿……」
物見の兵が青ざめた顔で戻ってくる。
「毛利軍、小早川軍、動きません!」
「……うん、まぁそうだね」
「な、何故ですか!?今攻めれば西軍の勝利は確実!
なぜ兵を動かさないのですか!」
「弁当でも、喰ってるんだろ。」
「すぐに使者を送ります故、お怒りをお静めください。」
怒りを静めろと言った本人ミッチーが中田将軍の中で一番
顔面を強ばさせ、
強い音で舌打ちをしました。
ちっ××ども××共が!(×には好きな汚い言葉をお入れください)
解かるよミッチー僕もある程度知っていたから怒らないけど。
知らずに、西軍を指揮してたら地団太踏んでいたことでしょう。
△△△△
2時間後、山を迂回して使いの者が戻ってきた。
△△△△
「申し上げます。小早川秀秋殿、重い病とのことで……
赤痢の疑いがあり、面会不能」
(仮病だな、これ)
「毛利輝元殿は……弁当を召し上がっており、
兵を動かせないとの事です」
沈黙。
「……殿!
なぜ、そんなに落ち着いていられるのですか!
由々しき事態ですぞ!」
(ごめんねミッチー未来の歴史の教科書で見ちゃった)
その後度々、徳川軍へ進軍せよと、のろしを上げたが毛利軍、小早川軍の軍旗は風にはなびいていたものの軍はピクリとも動かなかった。
(動かざる事 山の如し ちょっとは動いてよ
西軍は戦参加軍が少ない兵ながらも東軍の当初の勢いを止め
若干有利な状況であった。)
報告によりますと、明石軍と福島軍の戦いなどでは明石全登のキリスト教徒部隊が槍突撃を繰り返し福島の進軍をくい止めた。
また大谷吉継も、2000人の兵ながら兵力三倍の藤堂高虎隊、京極高知隊を相手に奮闘。長宗我部軍もやる気を出していただいたようで同時に攻撃参加。東軍を前線より追い返した。
みんな頑張りました。
そして、
西軍と東軍の関ヶ原の戦い、一日目は日没とともに終わった。
太陽が山の端に沈むにつれ、
昼間あれほど鳴り続けていた銃声と鬨の声は、
嘘のように消え、
代わりに湿地に残ったのは、
血の匂いと、かすかな呻き声だけだった。
「……終わった、のか?」
誰に向けたとも知れぬ声が、
どこかで漏れた。
陣の前では、
僕の兵士たちが動き始めていた。
倒れた味方の遺体。
敵味方の区別もつかない死体。
弥助が放った千本ノックの石。
武蔵が豪速球で投げ続けた石ころの山。
「……拾え」
「まだ使える石だ」
「それ、血を拭け」
誰も大声では喋らない。
夕暮れの中で、
石が触れ合う音と、
鎧が引きずられる音だけが響く。
(思い込んだら〜試練のフンフンフー……)
頭の中で、どうでもいい歌が流れた。
(……野球部かよ)
自分でツッコミを入れたが、
誰も笑わない。
誰も聞いていない。
それどころではない。
中田軍は、
夕日を背にして、
自軍と敵軍、両方の死体を回収していた。
「……おぉおおおええええぇ……」
誰かが耐えきれず、吐いた。
山の上から見下ろしているだけでも、
分かる。
これは“戦場”ではない。
湿地に沈みかけた身体。
首のない胴体。
腕だけ、脚だけが残った兵。
血と泥と水が混じり合い、関ヶ原の地面は、
踏みしめるたびにぬちゃりと音を立てた。
そして――
ひと目で分かる場所があった。
本多忠勝。(義理の鬼ィ様。)
そこだけ、明らかに“量”が違う。
斬首された中田軍の首。
積み上げられた胴体。
まるで、
人が人を切り刻む作業を、
淡々と繰り返した跡だった。
「……五百以上は、確実だな」
「一人で、か……」
本多忠勝大先生の無双大活躍により、
中田軍は五百名以上の死傷者を出していた。
(味方になれば千人力。
敵になれば、地獄の鬼)
誰も、その言葉を否定しなかった。
夕日は完全に沈み、
戦場には夜が降りた。
僕は自陣に戻り、
血の付いた地図を広げた。
手を伸ばすと、指先が少し震えているのが分かった。
「……明日だな」
明日は、
もっと死ぬ。
もっと壊れる。
今日の地獄は、まだ序章に過ぎない。
僕は、次なる作戦を考え始めた。
関ヶ原という地獄の湿地は、
まだ腹を空かせている。




