第8話 前哨戦がありました。
石田三成は真田昌幸へ西軍参加の書状を出した、尾張と三河国境付近で東軍を迎撃、背後より上杉・佐竹軍と挟撃することで勝利をする作戦であった。
「上杉征伐」に参加するため真田家は、群馬の犬伏まで行ったのですが、そこに挙兵し、参加を要請する石田三成の手紙が舞い込み、親子でどうすべきか討論になります。
本多忠勝の娘を妻にしている長男の信幸は東軍の徳川方加勢を、大谷吉継の娘を妻にしている次男の幸村は西軍 中田方加勢を主張します。 一説には兄弟はつかみ合いのけんかになった。
父・真田昌幸の結論は、真田信幸を徳川(東軍)に、自分と真田幸村は中田方(西軍)にすることとし、信幸のみ家康軍に行かせ、自分たちは上田城に引き上げた。
◇◇◇
徳川秀忠は38000人を率いて徳川家康の援軍に駆けつけていた。 今でいう中山道を進んで西に向かった。 そしてその進路に、真田父子が立て篭もる上田城があった。
「上田城の真田の兵はいかほどじゃ」
徳川秀忠は馬上より上田城を通り過ぎようとしていた。
「2000人ほどかと思われます」
徳川秀忠は、幸村の兄の真田信幸に命じて、 父の真田昌幸に対して無血開城を求める。 しかし真田昌幸はのらりくらりと返事を先延ばしにして、 時間稼ぎに徹した。 数日の後、真田昌幸から届いた返答は
「返答を延ばしていたのは篭城の準備の為でござった。 充分に仕度は出来たので、一合戦つかまつろう」 というものだった。
あまりに大胆不敵な宣戦布告に、 徳川秀忠は
「謀ったな真田昌幸め!許さん許さんぞ!」
と周囲の武将達へ怒鳴り散らした。
そして上田城へ全軍総攻撃の命令をくだした。
【上田合戦】
霧雨が、上田の城下を濡らしていた。
山に囲まれた小城だが、その静けさは、獣が息を潜める前触れだった。
徳川秀忠は、馬上から城を見上げる。
「……たかが二千。道を塞ぐに足らぬ」
そう言い放ったその瞬間、
城門の太鼓が鳴った。
低く、腹に響く音。
それは挑発ではない。宣告だった。
上田城・真田方
真田昌幸は、城壁の上で微笑んでいた。
「秀忠殿は、若い。
数を信じ、戦を急ぐ」
幸村が歯を食いしばる。
「兄上が、あの軍に……」
「それでよい」
昌幸は即答した。
「家は残る。
国は残る。
命は……賭けるものだ」
城内では、百姓兵が鍬を槍に持ち替え、
女たちは矢を運び、湯を沸かす。
逃げ場はない。覚悟だけが、城を固めていた。
徳川軍・総攻撃
「攻めよォッ!!」
秀忠の号令と共に、三万八千の兵が雪崩れ込む。
梯子がかけられ、鉄砲が火を噴く。
次の瞬間。
城外の湿地が、牙を剥いた。
足を踏み入れた徳川兵が次々と沈む。
泥に絡め取られ、鎧が重りとなり、立てない。
「う、動けぬ!」
「引け! 引けぇっ!」
その叫びをかき消すように、
城壁から矢の雨が降り注ぐ。
狙いは顔、喉、腿。
致命ではない。
だが、生き地獄。
倒れた者を助けようとした者が、
次の矢に貫かれる。
真田の策
夜になると、城門がわずかに開いた。
「出るぞ」
幸村の声と共に、
赤備えにも劣らぬ真田の精鋭が闇に溶ける。
奇襲。
火を放ち、太鼓を叩き、
徳川陣の中に“城がある”と思わせる。
混乱。
同士討ち。
逃げ場を失った兵が叫ぶ。
「真田が! 真田が後ろにいる!」
昌幸はそれを城から見下ろしていた。
「戦とはな、
刃で斬る前に、心を折るものよ」
秀忠、激昂
三日目。
死体が、湿地に浮かび始めた。
雨で膨れた屍が、軍の進路を塞ぐ。
秀忠は歯噛みする。
「なぜだ……!
なぜ落ちぬ!」
報せが届く。
「関ヶ原にて、合戦始まった由!」
秀忠の顔から、血の気が引いた。
遅れた。
三万八千。
父に渡すはずだった、勝利の重み。
それを、
真田昌幸は
たった二千で、奪ったのだ。
城の天守で、昌幸は空を仰ぐ。
「三成よ。お前の策は、半分外れた」
上杉も、佐竹も来ぬ。
挟撃は潰えた。
だが
「それでもよい。
この三日で、歴史は歪んだ」
幸村が静かに言う。
「父上……我らは、勝ったのですか」
昌幸は、笑わなかった。
「いいや」
そして、低く告げる。
「生き延びただけだ。
だがそれが、最も残酷な勝利だ」
上田城は、なお立っていた。
徳川の大軍を嘲笑うように。
そして関ヶ原では
戦の運命が、すでに動き始めていた。
【関ケ原の戦い 前哨戦編 完】




