第6話 挑戦状を叩きつけました。
上杉謙信の急死により、上杉家は二分された。
養子である
上杉景勝と上杉景虎。
これが御館の乱。
直江兼続は、謙信没後わずか二日で
本丸・兵器蔵・軍資金三万両を確保。
迅速な行動で景虎を孤立させ、
一年後、景虎は自害。
この内乱で上杉家は疲弊するが、
直江兼続は名実ともに上杉家の頭脳となった。
◇◇◇
僕は、会津の料亭旅館の奥座敷にいた。
雪はまだ降っていないが、空気はもう冷たい。
雪国の夜は、音が消える。
会津の料亭旅館、奥座敷。
僕は上座に座っている。
隣に控えるのは
石田三成。僕の部下だ。
几帳面に背筋を伸ばし、
書状や情報を整える役。
向かいに座るのが、
直江兼続。
静かな男だが、
目が「引かない」人間のそれだった。
「徳川家より、
書状が届いております」
兼続が差し出す。
……当然、読めない。
「三成」
「はっ」
僕が短く言うと、
三成はすぐ内容を整理する。
石田三成(部下)の要約
「殿、内容を簡略に申します」
「上杉家は 武具・防具の収集、
婚姻の斡旋などを行っている」
「これは徳川政権下では 謀反の疑いありと見なされる」
「よって 一月までに上洛し、弁明せよ
以上です」
三成は感情を挟まない。
事務的だが、鋭い。
(相変わらず仕事が早い)
「つまり徳川は、
“来い”と言っているわけだな」
「はい。 来なければ、敵と見なすと」
「……なるほど」
僕は直江兼続を見る。
「それで、 そちらの返答は?」
直江兼続、直江状案を示す
「こちらが、 お返しする書簡の案にございます」
畳に広げられた文。
(原文は、存在しない)
だが内容は、明らかに挑発的だった。
兼続は、淡々と語る。
「当家は、 会津への国替えを命じられたばかり」
「雪国ゆえ、
十月から十二月は
動くこともままならぬ」
「一月までに上洛せよとは、
現実を顧みぬ命」
三成が、
横で小さく頷く。
「また」
「我らは田舎武士」
「武具を集め、
備えるのは当然の務め」
「そちらは茶道具を集め、
日々風流を楽しんでおられるようだが」
(三成、内心ヒヤッとしてるな)
さらに踏み込む直江
「婚姻の斡旋が謀反なら」
「それを率先して行っている。 徳川家はどうなる?」
「前田家を疑い、
妻・まつ殿が
人質に出た件も忘れてはおらぬ」
空気が、
一段階冷える。
「もし、なお
謀反の疑いありと申すなら――」
「出迎えてやる。 いつでも、かかって来い」
(おーこれが有名な徳川家康に叩きつけた直江状か。
歴史家が見たら、感動感激するのでしょう。まぁ読めませぬ)
【直江状】
上杉景勝の家老、直江兼続が徳川家の交渉に当たっていた西笑に
送った書簡。関ヶ原の戦いのきっかけとなった会津討伐を家康に
決断させたものと言われているが、偽書文との説もある。
僕は、しばらく黙る。
石だ三成も、何も言わない。
(……これは)
(弁明文じゃない)
(宣戦布告だ)
「三成」
「はっ」
「この書状、 徳川はどう受け取る?」
三成は即答した。
「必ず会津討伐を決断します」
「そうか」
僕は直江兼続を見る。
「……覚悟は?」
兼続は、一切迷わず答えた。
「上杉は、従いませぬ」
石田三成と直江兼続との対徳川家康の密談は深夜遅くまで
行われることとなった。
深夜。
三成は資料をまとめ、次の動きを考えている。
僕は横で、少し感心した。
(徳川へ剣を抜いたのは、まだ誰もいない)
(だが、戦はもう始まっている)
火種は、一通の手紙だった。




