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【歴史ランキング1位達成】 累計331万1千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
第九部 天下統一編

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第14話 壊滅しました。

長久手・仏ケ根

包囲殲滅戦・秀吉軍の足軽の目


最初は、押していた。

数はある。前には少数の敵がいる。

だから前へ進めばいいそれだけだと思っていた。



最初は、勝っているように見えただ。


太鼓が鳴り、

鬨の声が山を震わせ、

戦場の真ん中で秀吉軍が前に出てきた。


「中央、崩れかけとるぞ!」


そんな声が走る。


中田軍の盾の部隊、五百。横に百人、五列。

隙間なく、ぴったり並ぶ。


盾と盾が触れ合う音が、

ゴン、ゴン、と鳴る。


「盾ぇ!前へ!」


わいの足軽は、その後ろだ。

槍を握り、足元の土を踏みしめる。


怖えが、まだ“いくさ”だと思っとった。


前を見とりゃ、敵はおる。

殴り合えば終わる。そう信じとった。


合戦図

https://4583.mitemin.net/i78814/


だが、妙だった。


秀吉軍、前が下がる。


「逃げるだか?」


誰かが笑った。

その瞬間だ。


横から、ズドン、ズドン、と音がした。


「横だ!横から来とる!」


わいは振り向いた。

敵兵が、来とる。


横一列。ずらぁっと。


数が、分からん。


後ろでも、誰かが叫ぶ。


「後ろもだ!後ろも来とるぞ!」


前を見る。敵はもうおらん。

前におったはずの敵が、消えとる。


代わりに、左右と後ろが、黒う埋まっとる。


胸が、ぎゅっと縮んだ。


「あれ……?」


誰も指示を出さん。


太鼓も、声も、バラバラだ。


わいは、そのとき、初めて分かった。


「……囲まれとる」


前に出られん。

横に動けん。

後ろに下がれん。


人が多すぎて、足が動かん。


盾の裏で、押される。


「押すな!押すなて!」


叫んでも、後ろの奴も必死だ。


息が、くせえ。

汗と血の匂いが混じって、

鼻が焼ける。


「おっかあ……」


誰かが泣いた。


足元を見ると、

誰かが倒れとる。

踏んづけられとる。


起き上がれん。


――だんだん、

音が変わる。


叫びじゃねえ。潰れる音だ。


ドン、

ミシッ、

グチャ。


横から、槍が出てくる。


後ろから、矢が刺さる。


正面じゃねえ。


横と後ろからだ。


「逃げろぉ!!」


誰かが言った。


だが、どこへだ。


前も敵。横も敵。

後ろも敵。


空だけが、やけに青い。


わいは思った。


「こりゃあ……戦じゃねえ」


「……狩りだ」


敵は、急がん。

突っ込んでもこん。


ただ、

じり、じり、と近づく。


円が、狭まる。


人が、潰れる。


声が、消える。


気づいたときには、

わいの前におった仲間は、

もう動かん。


盾が落ち、槍が折れ、

地面が見えた。


逃げ道は、最初から無かった。


正面で勝ったように見せ、

安心させ、

横と後ろから締める。


包囲っちゅうのは、一気に殺す戦じゃねえ。


逃げられんと分からせてから、

ゆっくり潰す戦だ。


わいは、最後に、

こんなことを思った。


「……前だけ見とりゃ、

 生きられると思っとった」


――間違いだった。


その日、戦場には、声のない死骸が、

山ほど残った。


それが、包囲・殲滅だ。

数は、意味を失った。


多すぎる者は、逃げられない。

包囲とは、殺す前に、絶望させる戦だ。


その日、戦場には勝者の叫びと、

敗者の沈黙だけが残った。




◇◇◇



弥助は、血と土にまみれながら、

金棒を肩に担いで言った。


「……オワッタ?」


周りは敵兵の死体

誰も、答えなかった。

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