第7話 嵐の前の静けさでした。
【仏ヶ根(長久手)の戦い】
仏ヶ根の平地。
午前十時。
霧は晴れ、空は異様なほど青い。
徳川連合軍一万四千余。
秀吉連合軍ほぼ同数。
二時間。
誰も動かない。
馬の鼻息、
鎧が擦れる音、
土の匂い。
戦場は嵐の前の静けさ。
◇◇◇
その沈黙を破ったのは、
伊達政宗だった。
「伊達の騎馬鉄砲隊。突撃せよ!!」
どよめき。
紺の旗に金の丸。
漆黒の騎馬が前へ出る。
一千騎。
(おお…… 来た来た来た……!)
おおーあれが有名な伊達軍騎馬鉄砲隊かぁ
僕はウキウキした。
(きっと騎馬から華麗に乱射しまくるんだろうな。)
僕は思わず身を乗り出した。
(馬上で乱射!
ド派手!さすが伊達!)
次の瞬間。
「止まれええ!!」
騎馬、急停止。
「放てぇぇ!!」
パン! パン! パン! パン!
乾いた銃声。
煙。
そして――
「退却!!」
……え?
一斉に方向転換。
ドドドドド!!
戻ってくる。
戻ってくる。
(……戻ってくる??)
呆然とする僕の前を、
騎馬鉄砲隊が何事もなかったように帰還。
(地味ッ!!
地味すぎるだろ!!)
信長の三段撃ちと、
武田の機動力を組み合わせた合理戦法。
確かに強い。
確かに安全。
だが
(絵面が!
圧倒的に! 地味!!)
後方で、
伊達政宗が腕を組み、
ドヤ顔でにんまりしている。
(ああ……駄目だこいつ……)
◇◇◇
その時。
秀吉軍が、
じわりと前に出た。
槍が林立し、
鉄砲隊が展開する。
このままでは、
押し切られる。
他力本願は終わりだ。
やるしかない。
僕は馬腹を蹴った。
「装甲車部隊!!
盾の部隊、前へ!!」
中田軍が動く。
木と鉄で組んだ即席装甲。
盾兵が密集陣形を組み、
前進。
鉄砲の弾が、
ガン! ガン!
盾に当たり、火花を散らす。
「ひるむな!!」
「続けぇぇ!!」
◇◇◇
「後方、火炎点火部隊!
クロスボウガン部隊、続け!!」
弓と火。
ヒュン! ヒュン!
重いクロスボウの矢が、
秀吉軍の密集を貫く。
油壺が投げ込まれ、
ボッ!!
炎が上がる。
悲鳴。
隊列が乱れる。
さらに
「ハングライダー部隊!!
くノ一部隊!!
後方撹乱、開始!!」
空から。
横から。
混乱は連鎖する。
後方で火の手が上がり、
「敵だ!」「味方だ!」
怒号が飛び交う。
秀吉軍の陣が、
ざわついた。
僕は刀を抜いた。(使わないけど)
心臓が、うるさい。
久しぶりだ。
交渉でも、
根回しでもない。
純粋な戦場。
「中田軍!!僕に続け!!」
二千の兵が応える。
「「「おおおおお!!」」」
馬が走る。
土が跳ねる。
(僕がやる。
僕が歴史を変える)
視界の先
池田、森、堀。
秀吉の主力が、
今、目の前にある。
仏ヶ根の戦いは、
ここから本当の地獄へ入る。
刃と刃が、
真正面からぶつかる。その瞬間だった。




