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【歴史ランキング1位達成】 累計327万1千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
第七部 中国地方・九州地方編

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第2話 生き残りました。

安芸・吉田郡山城。

報せは、静かに届いた。


「宇喜多直家、織田方へ完全に転じました」


元就は、しばらく黙っていた。

老いた指が、机を叩く。


……コツ。


「やはりな」


家臣が言う。


「許されませぬ。 討つべきでは――」


元就は、首を振った。


「討つ? 今さらか」


目が、鋭く光る。


「直家はな、 感情で動く男ではない」


地図の上、備前を指す。


「裏切ったのではない。

 生き残る道を、選んだだけだ」


沈黙。


そして、低く。


「……だが」


声が、冷える。


「毛利の敵になったことも、事実」


元就は言った。


「直家は賢い。だからこそ、厄介だ」


家臣が息を呑む。


「力で潰す」


老将の目に、炎が宿った。


「宇喜多が選んだ道が、正しかったかどうか」


ゆっくりと。


「血で、証明させてやる」



◇◇◇



麦飯山むぎいざんの合戦


空は低く、雲が垂れ込めていた。

麦飯山一帯は、前夜からの雨で土が緩み、足を取られる地獄のような地形となっていた。


毛利元晴は山上に陣を敷く。

二万の兵。

旗は風に鳴り、鉄砲隊が段を組み、山はすでに殺すための城となっていた。


一方、宇喜多軍。

数では劣るが、退く場所はない。


「ここを越えれば、家は残る」

「越えられねば、名は消える」


その覚悟だけで、兵は槍を握っていた。


第一撃

朝霧の中、鬨の声が割れた。


宇喜多勢が斜面を駆け上がる。

矢が降り、鉄砲が鳴る。

倒れても、次が踏み越える。


一時、毛利軍の前列が崩れた。

山上の柵が押され、旗が揺らぐ。


「奪われるぞ!」


毛利の陣に焦りが走った。


その瞬間だった。


山の裏手、川霧を裂いて現れたのは

村上水軍。


太鼓が鳴り、黒い鎧が浜に溢れ出す。

背後からの突撃。


宇喜多軍の側面が切り裂かれた。


戦場は、秩序を失った。



宇喜多勢は山城へと退く。

門を閉じ、石を落とし、矢を放つ。


だが

・食糧は尽き

・援軍はなく

・武将は一人、また一人と倒れた


「殿、もう持ちませぬ……」


城は落ちた。


火が上がり、叫びが消え、

名のある者も、名もなき者も、土に還った。


しかし、ここで終わらなかった。

生き残った宇喜多の若武者たち

後に 浜七本槍 と呼ばれる者たちが、前に出た。


退路はない。

帰る城もない。


ただ、時間を稼ぐためだけの突撃。


「行くぞ」

「名を残すな、生き様を残せ」


七人は走った。


矢を受け、槍を折られ、

それでも前へ、前へ。


その猛攻に、毛利軍の陣形が崩れる。


「これ以上は損が大きい」


判断は早かった。


毛利軍は備中へと兵を引く。

勝っていたはずの戦が、

血を吸いすぎた戦へと変わっていた。


戦場には、静けさだけが残った。

煙の向こうに、僕と秀吉の軍勢が、備前へ入る。


秀吉が呟く。


「よう、生きとったな、直家殿」


直家は一礼する。


「生き残っただけです。 勝ったとは、思っておりませぬ」


秀吉は鼻で笑った。


「十分や。 死なんかった者が、次を作る」


一拍置き、声を落とす。


「……毛利は、怒っとるで」


直家は、分かっていた。


「でしょうな。 裏切りは、何より嫌われます」


秀吉は肩をすくめる。


「裏切り? ちゃうちゃう」


一歩、近づく。


「時代を読む力や」


直家の目が、わずかに動く。


「毛利は、強い。 じゃが、重い。

 船がでかすぎて、曲がれん」


秀吉は指を立てた。


「信長様の船はな、

 速いで。 小回りが利く。

 多少、血はこぼれるがな」


直家は、静かに言った。


「……宇喜多は、その船に、賭けました」


秀吉は笑った。


「賭けたんやない。 乗ったんや」


そして、低く。


「もう、降りられへんで」


直家は、うなずいた。

それでいい、と。


この一戦で、

宇喜多直家は確信した。


鞍替えは正しかった。

だが、代償は安くなかった。

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