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【歴史ランキング1位達成】 累計326万1千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
第六部 四国地方・越前編

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第8話 亡命しました。

縄で縛られた浅井長政を先頭に、装甲車は小谷城の坂を上った。

城はまだ息をしている。

だが、主の不在はすでに空気を腐らせていた。


門前で長政を引きずり出すと、城兵の動きが止まる。


「……殿……」


誰もが声を失った。


門は、軋む音を立てて開かれた。


お市の方、現る


城の奥から、白い衣が静かに進み出る。


「……浅井様」


お市の方の声は、乱れていなかった。

それが、かえって痛かった。


「ご無事で……ございますか……」


長政は顔を上げ、

縛られたまま、わずかに笑った。


「……市」


志賀弁が、ひどく優しかった。


「すまんの……

 こんな格好で、戻ってきてしもて」


お市の目が潤む。


「なぜ……なぜ、このような……」


「負けたんや」


はっきりと言った。


「皆よう戦うてくれた。

 せやけど……もう、あかん」


捕縛された浅井長政の沈黙


僕が口を挟もうとした瞬間、

長政はそれを制した。


「……もう少し、話を」


城の風が吹き抜ける。


「市……

 わしは、もう武将としては終わりや」


お市が首を振る。


「いいえ。

 あなた様は……」


「違う」


低く、重い。


「ここで死んだら、楽や。

 けどな……」


一度、言葉を切った。


「それやと、

 市を、子を、

 皆、信長に差し出すことになる」


沈黙。


「……それだけは、でけへん」


僕は、お市の方にすべてを話した。

未来の流れ。

信長の非情さ。

小谷の落城。

そして、彼女自身の最期。


お市は、驚かなかった。


「……兄上らしいことです」


静かに、そう言った。


「浅井様」


長政を見る。


「あなた様は……

 この先、生きたいと、思われますか」


長政は、しばらく黙り、

そして答えた。


「……市と、生きたい」


志賀弁が、震えた。


「一日でもええ。

 山奥でも、雪の中でもええ。

 市と一緒に、生きたい」


お市は、目を閉じた。


長い沈黙のあと


「分かりました」


はっきりと。


「兄上を裏切ることになります。

 ですが……」


長政の縄に、そっと触れる。


「妻として、

 この方を見捨てることは、できませぬ」


それが、お市の覚悟だった。



僕は、すでに手は打っていた。


越後

義を重んじ、

信長を快く思わぬ男。


上杉謙信。


使者の返答は簡潔だった。


「命を捨てぬ覚悟で生きるなら、迎える。

ただし、二度と信長と刃を交えるな」


長政は、その条件を聞き、頷いた。


「十分や……」


静かに。


「剣を置いても、生きられるなら…… それでええ」



夜明け前。


小谷城を離れる一行は、目立たぬよう山道を進んだ。


お市は一度も、城を振り返らなかった。


長政だけが、最後に呟いた。


「……すまんな、小谷」


◇◇◇



姉川の戦いから数日後。

岐阜城。


「申し上げます……

 浅井長政、行方知れず。

 お市の方様も、姿を消しております」


広間の空気が凍る。


信長は、しばらく黙っとった。

杯を傾けたまま、微動だにせん。


……そして。


「―――くくっ」


笑った。


「……なんじゃそれは」


低く、喉の奥で笑う。


「妹がよ、 あの情けねぇ男を選びおったか」


杯を乱暴に畳に置く。

酒がこぼれる。


「たわけが」


吐き捨てるように。


「血より、男か。 情に負けて、歴史から逃げおったわ」


家臣たちは息を呑む。


信長は立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。


「ええわ」


振り返りもせず言う。


「浅井はもう、いらん」


声が、一段低くなる。


「城も、家も、名も、

 骨も灰も、跡形も残すな」


拳を握る。


「裏切り者の家名が、

 この世に息しとるだけで虫唾が走るわ」


家臣が、震える声で口を開く。


「……長政様、生きておられるやもしれませぬが……」


信長、即答。


「生きとっても関係ねぇ」


鋭く、斬る。


「わしが“要らん”言うた時点で、

 そやつはもう死人じゃ」


一拍。


「歴史にも、人の記憶にも、

 名ァ残させるな」


そして、ぽつり。


誰にも聞こえんほど小さな声で。


「……市」


一瞬だけ、感情が滲む。


だが次の瞬間、顔は戻る。


「……勝手にせえ」


吐き捨てるように。


「生き恥さらして逃げるなら、二度とわしの前に姿見せるな」


最後に、冷たく笑う。


「出てきたら、 今度こそ、妹ごと焼く」


広間には、誰も声を出せんかった。


__________________________


お市の方ですが歴史上では子供達は織田家に救出され引き取られますが長男は捕われ殺害 次男は出家させられます。

次男と3人の娘たちとお市の方は信長のもとで

手厚い保護、養育を受けました。


後に家臣の柴田勝家と再婚しますが秀吉との戦いに敗れ秀吉のものになるくらいなら

と城の中で自害します。享年37。


辞世の句は

「さらぬだに 打ちぬる程も 夏の夜の 別れを誘ふ ほととぎすかな」


いまさら生きることを惜しむわけではありませんが、

あなたに抱かれて燃えた夜を想いだす間もなく、

ホトトギスが別れを急かせるように、鳴いていますね。

(ホトドギスは二度と帰らない「不如帰」と書き、自決とをかけている)


3人の娘たちはそれぞれ

長女 茶々は豊臣秀吉の側室になります。

   後継ぎ豊臣秀頼を産み淀君として実権を握ります。

二女 初は京極高次に嫁ぎます。

三女 江は徳川秀忠に嫁ぎます。 


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