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【歴史ランキング1位達成】 累計323万9千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
第五部  中国地方編

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第11話 夜逃げしました。

夜半。

上月城こうづきじょうの櫓には、普段より多くの灯がともされていた。


ろうそく。

提灯。

火皿。


城は生きている

そう見せかけるための、偽りの明るさ。


城門の影で、兵は息を殺す。

鎧が触れ合わぬよう、紐を締め直す音さえ消した。


中田軍、尼子軍。

今夜、ここを出る。


夜逃げ

だが、それは卑怯ではない。

生き残るための、唯一の選択だった。


「……動いたぞ」


闇の向こうで、毛利軍の声がした。


次の瞬間


「敵が城から出てきたぞ!」


見張りはいた。

囲みは、解けていなかった。


毛利軍が、

竹槍の垣根の間から、

静かに、しかし確実に出てくる。


包囲は、締まる。


人力槍衾じんりきやりぶすま、前へ!」


人が押す。

槍が突き出る。


人力車に無数の刃。

夜の闇を割って、突進。


「やま――あ!」


暗号。


闇の中で、

敵と味方を分ける、唯一の言葉。


「……うわぁっ!」


毛利の列が乱れる。

だが止まらない。


数は、向こうが上だ。


追撃


別動の追撃隊が、横から迫る。


「クロスボウ、構え!」


弦が引かれる音が、

夜に不気味に響く。


「やま――あ!」


「かわ――あ!」


合言葉。


矢は放たれなかった。

人力槍衾が、戻ってきたのだ。


一瞬の判断。

一歩間違えれば、同士討ち。


夜は、冷酷だった。



撤退は、戦いだ。


遊撃隊が出る。

当たる。

引く。


別の遊撃隊が、

前に出る。


その背で本隊が、進む。


だが、毛利は追う。


そしてついに,犠牲は、出始めた。


忠臣たちの死


尼子の将、山中家。

「ここは我らが受け持つ。 本隊を通せ」


振り返らず、闇へ消えた。


戻らなかった。


次に、秋上家。


退路を確保するため、

谷に残った。


夜明け前、その名を呼ぶ声は、

返らなかった。


横道家。


負傷した兵を背負い、最後尾に留まる。


「殿、先へ」


それが、最後の言葉だった。


何度も、何度も、

交互に打って、引いて。


ついに二つの遊撃隊が、本隊と合流。


山を越えた。


上月城は、背後で、

闇に沈んだ。


城は取られた。


だが僕の命は、残った。


その代わりに、多くの忠臣たちが、

戻らなかった。


沈黙


誰も、勝利を口にしない。


助かった兵も、俯いたまま、

名を数える。


足りない。

足りない。

足りない。


撤退は、成功だった。


だが、完勝ではない。



◇◇◇



復讐の芽

宇喜多家への不戦対応。


中立。


毛利に子を取られ、

動けなかったという言い分。


信長は、即断した。


「宇喜多家の子だぁ? 知るか、そんなもん。」


床を踏み鳴らし、声を荒げる。


「裏切り者の種じゃ。

 今すぐ首はねて、血ぃ見せたれや!」


さらに畳みかける。


「生かしとく意味がどこにあるだぁ!

 あんなもん置いときゃ、またらやられるだけじゃ!」


目を吊り上げ、唾を飛ばしながら。


「泣こうが喚こうが関係ねぇ。

 戦は情けかけた方が負けるんじゃ!見せしめにせぇ!」


座は、凍りついた。


信長の言葉が落ちた瞬間、

家臣たちは誰一人、息すらできなかった。


その沈黙を、破ったのは中田だった。


「……お待ちください、信長様」


声が、震えた。

喉がひりつく。足が重い。

それでも一歩、前に出る。


「それだけは、どうか……お考え直しを」


ざわり、と空気が揺れた。

何人かが目を見開く。


信長の視線が、ゆっくりと中田に向く。


「……あぁ?」


低い。

獣が唸るような声。


中田は、歯を食いしばった。


「宇喜多直家は策士です。

 子を殺せば、奴は毛利に骨まで忠誠を誓うでしょう」


「……」


「生かしておけば、縛れます。

 殺せば、敵を一人増やすだけです」


拳を握りしめ、続ける。


「これは情けではありません。 損得の話です」


一瞬、

信長の目が細くなった。


畳を踏みしめ、一歩近づく。


「お前……ワシに情を説く気か?」


中田は、首を振った。


「いいえ。 覇道を説いております」


――その言葉に、

重臣たちの背筋が一斉に凍った。


柴田勝家が、息を呑む。

丹羽長秀は視線を伏せた。

前田利家の手が、無意識に刀の柄に触れる。


信長は、しばらく黙っていた。


長い、長い沈黙。


やがて

ふん、と鼻を鳴らす。


「……くッ」


顔を背け、吐き捨てるように言った。


「今回だけじゃ。 今回“だけ”は、見逃したる」


座が、ざわりと揺れる。


だが、信長は振り返り、

中田を睨みつけた。


「次は無ぇぞ」


指を突きつける。


「次に裏切ったら、子も親も、一族まとめて皆殺しじゃ」


声は低く、冷たく、

一切の冗談が混じらない。


「覚えとけ。

 ワシは、二度も情をかける男じゃねぇ」


中田は、深く頭を下げた。

冷や汗が、背中を流れ落ちる。


その場にいた誰もが理解した。


今のは助命ではない。ただの“猶予”だ。

そしてその猶予は、血の匂いを孕んでいた。



そして次の命は、下った。


四国侵攻。


上月城で失ったものを、まだ数える間もなく。

戦は、次の戦を、連れてくる。



【第五部 完】

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