第8話 勝利を確信しました。
毛利軍隊
戦とは、かくも騒がしく、そして静かなものか。
毛利元就は、本陣の高みから戦場を見下ろしていた。
太鼓、鬨の声、鉄のぶつかる音。
それらすべてが混じり合い、やがて一つの唸りとなって大地を震わせる。
「……始まったな」
分進合撃。
散っていた毛利の諸隊が、再び収束する。
敵が布陣を立て直す前に、
一気に叩く。
毛利の兵は、よく動いた。
恐れを知り、恐れを制し、前へ出る。
乱戦となった。
そこかしこで、兵と兵が組み合い、倒れ、起き上がり、また倒れる。
刀は斬るためのものではない。
突くため、打つための道具だ。
鎧に刃は通らぬ。
だから喉元を狙い、脇を突き、兜の縁を打つ。
転べば終わりだ。
石が飛び、足がもつれ、頭を打った者はそのまま動かなくなる。
合戦で最も多く命を奪うのは、
名もなき一撃。
飛び石一つ、倒れた拍子の衝撃一つ。
それが戦だ。
だが
敵は、新しきものを持ってきた。
「……あれが噂の新兵器か」
人力槍衾。
二輪の上に組まれた槍の林が、
人の力で押し出される。
動く壁。
進む刃。
毛利の兵が押し返される。
突き刺される。
だが、止まらぬ。
「怯むな!!」
元就の声が届く。
「散れ!回れ!正面から当たるな!」
分進合撃の真骨頂。
正面は捨てる。
側面を取る。
背を突く。
槍衾の横腹に、毛利の兵が殺到する。
押す者、倒す者、車輪を叩き壊す者。
血が飛ぶ。
泥が跳ねる。
戦場は、もはや誰の勝ちかも分からぬ混沌。
それでも。
数は力だ。
毛利軍は崩れない。
次から次へと兵が前に出る。
尼子軍が下がる。
信長軍の陣形が歪む。
「……織田、崩れ始めたな」
毛利元就は、確信した。
その頃
織田軍
「なんじゃこりゃああああ!!」
信長は怒り狂っていた。
「下がるな言うとるやろが!!
誰が退け言うた!?
誰や!今下がった奴!!」
目は血走り、声は割れる。
「首刎ねるぞ!
今ここで刎ねるぞボケェ!!」
だが、命令は届かない。
兵は、恐怖に負けている。
敵ではない。
死そのものに。
押され、踏まれ、逃げ場を探す。
総崩れ。
織田の旗が揺れ、倒れ、再び起きることはなかった。
元就は、その光景を見つめていた。
「……これが戦だ」
団結とは、声ではない。
約束でもない。
耐えることだ。
前が倒れれば、次が出る。
それを繰り返すこと。
百万一心。
一人が百を思い、百が一つになる。
元就は、静かに呟いた。
「勝つとは……
生き残ることよ」
戦場は、なお続く。だが、流れは
確かに、毛利へと傾いていた。




