表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【歴史ランキング1位達成】 累計322万3千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
第二部 中部地方編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/152

第4話 干し殺しをしました。

六角家の観音寺城を囲んで二ヶ月が過ぎた。


最初は余裕を見せていた六角家の兵たちも、日に日に口数が減っていった。

米は底をつき、粥は水のように薄まり、最後は草の根や革帯まで煮て食う始末だった。


城内では争いが起きた。

配給の順番、隠し持った乾物、死人の持ち物。


武士の誇りは、空腹の前ではあまりにも脆かった。


「……もう、あかん……」

「昨日、あの部屋で三人死んどったぞ……」


餓死者は日に日に増え、

城は静かに、確実に狂っていった。


一方、城の外。


藤吉郎のちの秀吉は、陣の中央で腕を組み、城を見上げていた。

その顔には、どこか楽しそうな笑みが浮かんでいる。


「ほーれ、まだ粘っとるわ」

「人っちゅうのはなぁ、腹が減ると本性が出るもんだで」


家臣が不安げに言う。

「殿……城内では、もう餓死者が……」


藤吉郎は肩をすくめ、尾張弁で軽く笑った。


「知らんがね」

「食い物がある思っとるうちに降らん方が悪いんだわ」


「水も米も、一粒も入れたるな」

「欲しけりゃ、城門を開けりゃええだけの話だがね」


その笑顔は、異様だった。

怒りも憎しみもない。

ただ、人を“物”として扱う冷たさだけがあった。


【兵糧攻め=干し殺し(飢え殺し)】

古代から伝わる城攻めの戦法。

相手の食糧を断ち、城を包囲し、

絶望感によって自滅させる。


藤吉郎(秀吉)はこの戦法を、異常なほど好んだ。

(水を断つ水攻めもまた然り)


「斬らんでええ」

「燃やさんでええ」

「腹が減りゃ、人は勝手に壊れるで」


そう言って、藤吉郎は城を見て笑った。


「ほら見てみぃ」

「もう、仲間同士で噛み合っとるがね」


二ヶ月後。


六角義賢、六角義治は

骨と皮だけの姿で、城門を開け放ち、降伏した。


ガリガリに痩せ細り、

もはや“武将”と呼べる姿ではなかった。


「……あー、可哀そうだがね」

藤吉郎は、あくまで軽い調子で言った。


「ほれ、はよ水と食い物持ってったれ」

「これ以上死なれたら、後始末が面倒だで」


そして、降伏した六角家を見下ろしながら、

にやりと尾張弁で付け加えた。


「恨むなら、わしじゃないで」

「わしに逆らった自分らを恨みゃあええ」


「……まぁ」

「どうしても誰か恨みたいんなら――」


一拍置いて。


「信長様を恨みゃあええわなぁ」


その声は、冗談のようでいて、

どこまでも本気だった。


この戦法は、人道的とは言えない。

しかし、味方の損害は最小で済む。


藤吉郎にとって重要なのは、

人を殺さないことではない。


「自分の手を汚さず、確実に勝つこと」

それだけだった。


城は落ちた。

だが、人の心は

そのずっと前に、干上がっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ