第9話 驚きました。
美濃側・伏兵
河原の草むら。
朝露で草が冷たい。
美濃の鉄砲隊は、息を殺して潜んでいた。
「……来よったな」
「織田の若造、
ここで終いだがや……」
「河を渡っとる最中を撃ちゃあええ。
逃げ道なんぞ、ありゃあせんでな」
美濃の伏兵たちは、
誰もが、勝ちを疑っていなかった。
その時だ。
空の異変
「……おい」
「……なんだ?」
「空……
ちょいと、変じゃねぇか?」
「風が……
音、せんか……?」
ヒュウゥ……という、
聞いたことのない風切り音。
「……鳥じゃねぇぞ」
「……待て」
「……おい……」
「人だがや!!」
「人が……
人が空飛んどるがやぁ!!」
「な、なに言っとる!人が飛ぶわけ――」
バリッ。
上空で、和紙が破れる。
「……あ」
「……あぁ……」
布切れが散り、
その下から――
滑るように降りてくる、人影。
「ひ、ひぃ……」
「仏さまぁ……」
「天狗だで……
信長、天狗使っとるでぇ……」
「こ、こりゃあ……
夢じゃねぇよな……?」
誰かが膝をついた。
恐怖が、じわじわと広がる。
鉄砲の一斉射
「な、何しとる!
撃てぇ!!」
ぱん!
ぱん!
ぱん!
乾いた音が河原に響く。
「当たったか!?」
「撃ち落としたか!?」
だが。
カンッ!
カンッ!
「……あ?」
「……効かん?」
「弾が……
弾が弾かれたがや!!」
「なんだそれぇ!!」
「鉄だで!盾が鉄だがやぁ!!」
鉄砲隊に、ざわめきが走る。
その横から
ガタ……
ガタガタ……
ガタガタガタガタ……
「……なんだ……?」
「地面が……揺れとる……」
「馬か……?」
違う。
草むらを割って
装甲車の鉄の塊が、のっそりと現れた。
「……う、動いとる……」
「鉄の箱が……
動いとるがや!!」
「……歩いとる……」
「化け物だでぇ!!」
誰かが叫ぶ。
「や、やっとれん!!」
装甲車の側面から
ビュッ!
ビュビュッ!
「ぎゃぁぁ!!」
「脚!脚ぁ!!」
「抜けん!!
刺さっとる!!」
「なんだこの弓ぃ!!」
「引き金ひくだけで飛んでくるだがや!!」
「早すぎる!!
見えん!!」
恐怖は、完全に現実になった。
「うろたえるなぁ!!」
美濃の将が叫ぶ。
「鉄砲隊、下がれぇ!!」
「長柄の槍衆!前へ出ぇ!!」
だが
「……槍、届かんぞ……」
「近づいてくる……
止まらん……」
「鉄の箱が……
止まらんがや……」
手が、震える。
「なぁ……」
「これ……
ほんとに戦か……?」
「聞いとらんぞ……
こんなもん……」
恐怖が、
隊列を内側から喰い破っていく。
長柄の槍が、空を突く。
だが、その先には
鉄の箱。
止まらぬ前進。
空から雨のような矢。
そして
空から、位置を暴く影。
戦は、
もはや知っている形ではなかった。
美濃の兵が知る
戦は、
この瞬間、終わった。
戦は、 歴史とは違う形で 終盤へと突き進んでいった。
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【槍衾】
大勢の槍の部隊を横に隙間なく整列させて、槍の矛先を相手に向けて前進する戦法




